PARACAGE 9th【ars】 (ページ37)

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317.嘘でも。ページ37

「勝手に出て行くって何！？」

まだ肌寒い3月の早朝に、雅紀くんの声が響いた。
大きな声を出し過ぎたと自分で気付いたのか、彼は口元を掌で押さえながら「潤ちゃん、薄情だよ」ってモゴモゴ言った。

「だから、Aにも言ったけど今生の別れじゃないんだから挨拶とかいらないじゃん」
「それでも、今までずっと一緒に暮らしてたんだから」
「雅紀は親元離れて家を出る時、そんな真剣にお別れした？」
「...バイバーイって感じだったけど...」
「ほら見ろ、バイバーイ！」

潤くんが楽しそうに手を振る。
そんな潤くんに、雅紀くんがギュウって抱きついた。
当然、抱きつかれた彼は目をまん丸にして「は？」って棒立ち。

「潤ちゃんが素直に挨拶させてくんないから、強引にする！」
「はぁ？何だよ、それ」
「今までありがとう！潤ちゃん、好き！」
「俺は好きじゃない」
「寂しい！」
「俺は寂しくない」

潤くんはずーっと笑ってて、「嘘でも寂しいって言ってー」って抱きついてる雅紀くんを引き剥がした。

「じゃあ挨拶代わりに、最後だし俺から雅紀に、ひとつ教えてあげる」
「うん。何？」
「お前が幸せになった裏では、俺が失恋してんの」
「え...？」
「あ、でも安心してよ。告ってちゃんと振られたから」

なぁ？って潤くんに同意を求められて、倒れそうになる。
何の話をしてるの...潤くん...
雅紀くんも私を見て「そうなの？」って、何か眉毛下がっちゃってる。

「...恐れ多くも.....はい...」
「すごいAちゃん...潤ちゃんに告られて堕ちない子が居るんだ...」

驚くけど、雅紀くんはこーゆー事を本気で言う。
告白を断ったのは自分の存在があったから、とかはきっと考えないんだと思う。

「本当は時間が経って笑い話に出来るよーになってから、思い出として暴露しよっかなー？って思ってたんだけど。何か、もうお前ら見てると笑い話にできるわ！」

潤くんがケラケラーっと笑った。
でも雅紀くんは笑わず何かを考えてるように俯いて、大きく息を吐き出すと顔を上げた。

「潤ちゃん。俺、幸せになるから」
「え？」
「Aちゃんを幸せにして、俺も幸せになるから」
「.....」
「大丈夫だから。潤ちゃんのその想い、絶対に無駄にしないから」
「.....」
「潤ちゃんを無駄死にさせないから！」
「お前！その言い方はおかしいだろ」

堪えきれないって感じで潤くんが吹き出した。