PARACAGE 9th【ars】 (ページ21)

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301.羽衣。←1.22/2回目ページ21

いつもは分けてる前髪を、濡髪のようなスタイリングでバサッと全部下ろしてる。

お風呂上がりであんな頭になってる雅紀くんは、もう何度だって見てるのに。
ランウェイの彼は、その髪までも服の一部のようにして歩く。

靡く裾はまるで黒い羽衣のようで、そのまんまどこかへ行ってしまいそうにも感じた。

雅紀くんはその後、何着かの服に着替えてその度に表情が違って見えた。
最初の服とは対象的な真っ白い服を纏って出て来た時なんて、前髪で目元を隠しながらまるで少年のように口角を上げた。

「あれ、お前のモンなのよ？」

知らない内に口を両手で押さえたまんまステージを見てた私に、ニノくんが言う。

「...そんなんじゃない...」
「ンフフ、お前の事だからそう言うと思った」
「.....」

ずっとずっと好きだった咲くんのショーを観れる日が来るなんて、思ってなかった。
雑誌の中でだけ会える人。
それは、どれだけ経っても変わらない事だと思ってたのに。

「だけどね、実際Aのモンなのよ」
「そんなんじゃ...」
「大丈夫だ、自信持て」

ニノくんが私の肩に手を乗せた。
チラッと彼を見ると、思ってたよりずっと真剣な表情。
その瞬間、会場内に大きな拍手が響き渡る。

ステージに視線を戻すと、そこにはモデル達に囲まれた女性が居た。

さっきまでランウェイを彩ってた華やかな服とは違うシンプルなTシャツとデニムのロングスカートを着たその人は、口を大きく開けて笑いながら客席に両手を振ってる。

「.....」

それが誰かだなんて、言われなくても分かる。
その隣では、雅紀くんが彼女に拍手を送ってる。

「A」
「.....」
「お前は『今』だ」
「.....」
「相葉さんの『今』に居るのは、Aなんだから」
「...ニノくん」

ショーの幕が下りる。
ザワザワしてる会場に客電がついた。

「さ、バクステ行こ」
「はっ！？嫌だ！」

抵抗した瞬間に、肩に乗ってた手が一瞬で私の手を握った...とゆーよりも、掴まれた。

「なになにこの手なに！？」
「捕獲だろうが！逃げないように」
「ショーは観た！逃げてない！もう帰る！」
「挨拶くらいして行けよ、彼女なんだから」
「そーゆーの！そーゆーのが嫌っ！」
「奥ゆかしいねぇ」
「.....」
「...とでも言うと思ったか！来い！」

嫌だぁぁ！と嘆いても無駄。
ニノくんは私を引っ張りながら関係者入口へ入って行くと「お疲れ様でーす」なんて言いながらモデルさん達の間を縫って、澄ました顔で歩いてる。