PARACAGE 7th【ars】 (ページ34)

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244.ぬるいマグ。ページ34

部屋に戻って来た雅紀くんは、頭から被ったバスタオルで髪を拭きながら私の隣にボスンと座った。
ベッドがその分、沈む。

「お待たせー」
「...うん」

隣を見る事も出来ない。

「満腹で眠たーい」

雅紀くんが濡れた髪のままでベッドに寝転んだ。

「ちゃんと乾かさないと」
「どうせ朝もシャワー浴びるし、良いの良いの」
「風邪ひいちゃうよ？」
「んー...じゃ、あっためて」

あ、と思った時にはもう雅紀くんの腕の中。
まるで石鹸に包まれてるみたいな、お風呂上りの雅紀くんの匂い。
その香りがもっと欲しくて薄い胸に鼻を擦り付けると、「くすぐったい」って彼はクスクスと笑った。

肌触りの良いシーツは、ギミスタの物で
そんな事だって嬉しくて

「新しい毛布欲しいなー」
「来月、新作の毛布入荷するって聞いてるよ」
「どんなの？」
「柄が可愛かった」
「漠然としてるなー！」
「フフッ、でも可愛かったはず」
「そーなのー？信用しても良いのかなー？」

雅紀くんに抱き締められたまま小声で交わされる普通の会話も、私にとっては全然普通じゃなくって。
また、彼の胸に顔を埋める。

抱き締められてるその時間、雅紀くんが私にした事は頭のてっぺんへの軽いキスだけだった。
チュっと音の鳴る、小さなキス。

色々と準備してた自分が恥ずかしかったけど、そうだよテラハウスはそーゆーコト禁止だったじゃない。
そう思ったら、何だか落ち着いてスゥっと眠気がやって来た。

夜中、雅紀くんがベッドから出て行った気配を感じた。
微睡んだ意識の中で、煙草の匂いを感じた。
顔に冷たい空気が当たったから、きっと窓を開けて煙草を吸ってたんだろう。

次に目を覚ました時には、もう雅紀くんの姿は無かった。

「...あれ...？」

鳴り続けてるスマホのアラームを止めると、LINEが届いてる。
開いてみると『おはよ！仕事行って来るね！』と雅紀くんから。
届いてた時間は約30分前。

「...爆睡してた...」

お見送りしたかったなぁ...。

ベッドから起き上がってふと視線を下に向けると、ローテーブルにマグカップ。
二人で交換して、雅紀くんがくれたあのマグ。
その横に『モーニングコーヒーどうぞまさきより』ってメモ。
ホコリが入らないように、マグにはちゃんとシリコンの蓋も載せてある。

「......」

床に座ってマグを両手で包み、コーヒーを飲む。

「...ぬるい...」

何か、そのぬるさが愛おしくって

「ぬるいなー」

私は無意識に、笑ってた。