PARACAGE 7th【ars】 (ページ28)

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238.お団子。ページ28

お腹いっぱいのはずだったけど、中華の良い香りを嗅いでいると食欲も湧いてきて歩きながら肉まんを食べたり、水餃子を食べたり。

雅紀くんが「観光客が多い場所だと、全然気付かれないよ」と食べながら話してくれて、確かに彼の顔を見る人は少なかったけど『全然』って訳では無かった。
2回ほど声を掛けられた。
1回は高校生位の男の子達。もう1回はOLさんっぽい女性2人組。
雅紀くんが気さくに応対してる間に、私は何となく見ない振りしつつソーッとその場から離れて。

「なぁんで離れるの！」

でも彼はファンサービスを終えると、そう言いながら私の所に駆け寄って来てくれた。
サングラスの意味も無い位、特徴のある口元を大きく開けて笑いながら。

「モデルの咲が女の子と歩いてたー、なんて何の特ダネでも無いんだから大丈夫だよ」
「.....」
「あっ！違うよ！？しょっちゅう女の子と歩いてるからって訳じゃなくて、俺が大して有名じゃないからって事だよ！？」
「フフッ、そんな慌てなくても」
「だってAちゃん、俺を疑いの目で見てたもん」

もうっ！って、また軽く体当たりしてくる。
だから、そんな事されたら私の方が「もう！」だわ！可愛い、助けて！
ゴマ団子より甘いわ！

「あ、何かゴマ団子食べたくなって来た...」
「え？アハッ、食べよ食べよ！」

突然の要求にも笑って応えてくれる。
手を繋いで、ゴマ団子を買って、食べると甘くて、何だかすごく幸せだ。

「あー、満足ー」
「お腹いっぱいだねー」

バイクを停めてる所まで戻って、さて次はどうしようか？と考える。
お互いスマホを出して検索しながら、観たい映画あるー？とか、行きたかった場所あるー？とか。
でも、なかなか決まらない。
決まらないってゆーか、本当に私はどんな事でも雅紀くんが相手なら楽しいから何も思い付かないだけなんだけど。

「あ。じゃあ、また海行く？」
「海？」
「でも、今度は泳げない海」
「泳げない...？」

あの日行った夜の海は、夏には海水浴ができる海だから泳げる海。
じゃあ、泳げない海って？

あ、水族館とか！？
あ、そんな気がしてきた！

「Aちゃん、何でニヤニヤしてるの？」
「ん？分かった気がするから」
「ホントに？じゃあ、答え合わせね」

そう言った彼がバイクに跨る。

結果から言えば、答え合わせは私の間違い。
そこは水族館じゃなくて、雅紀くんの言った通りそのまんま『泳げない海』だった。

海の向こう側に高速道路が見える、都会の海。