PARACAGE 6th【ars】 (ページ8)

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183.玄関にて。ページ8

その夜はアカリとご飯に行く約束をしていて。
帰りが少し遅くなった。

翔さんはもう寝てるかもしれないから静かに玄関を開けると、階段から雅紀くんが下りてきた。

「あ、Aちゃん！おかえりー」
「ただいま」
「夜は涼しくなって来たね」
「そうだね」

そんな会話をしながら、雅紀くんはリビングの方ではなく玄関の方へ来る。
そして、そのまま靴を履いた。

「雅紀くん、出かけるの？」
「うん」
「...今から？」
「うん」

私の方を見ずに応える横顔、口角だけが上がってる。
ひんやりとした、その横顔。

「...雅紀くん」
「ん？」
「今日は帰って来る？」
「んー...どうだろ。時間的に終電無くなっちゃいそうだけどね」

「どうだろ」なんて言ってるけど、それは帰って来ないって事だ。
雅紀くんからは、私と同じ香り。

行って欲しくない。

でも、そんな事言えない。
言える立場じゃない。

「じゃあね、行ってきます」
「.....っ！」
「え...？」
「...あっ」

出て行こうとした雅紀くんの手首を掴んでしまってる自分に驚いて、慌てて手を離した。

「Aちゃん？」
「あの...こんな時間から飲んだりすると...ほら、お肌！お肌に悪そうだし！」
「お肌？」
「モデルさんはお顔が商売道具だし！」
「大丈夫だよ、肌荒れても仕上げの時に修正してくれるから」

雅紀くんはケラっと笑って、「じゃね」って扉に手を掛ける。

「あっ...」
「ん？」
「...えっと...」
「Aちゃん、呆れてるんでしょ？」
「...え...？」

また、口角だけが上がってる。

「俺が現実逃避してるって」
「そんな事は...」
「もう、何も考えたく無いの」
「.....」
「でも俺、からっぽになれる方法...他に知らない」

雅紀くんの声が、心に痛くて
自分のスカートを、ギュッと握った。

「そのスカート、ニノちゃんのスーツと似てるね」
「あ...うん、あのスーツ作った余りの生地で作ってくれて...」
「へぇ、お揃いなんだ」

可愛い、似合ってる。って笑った雅紀くんが、とうとう玄関の扉を開けてしまった。

「海...っ！」
「え？」

体半分、外に出てた雅紀くんが不思議そうに振り返る。

「海、行ったらどうかな！ドラマとかだと何かあったら海を見に行ったりするし！」
「...海」
「えっとー...あ、ほら！カブ子で！風を切って走ったら、絶対に気持ち良いよ！ねっ！」

言ってしまってから、ここから海までの距離ってどれ位なんだろう...私ってば無責任な事を！と気付く。