PARACAGE 6th【ars】 (ページ15)

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190.黒い海。ページ15

「もう俺は誰の事も好きとか想わないんだろーなぁって思ってたから...ちょっと、自分でもよく分かんなくて」
「.....」
「でも、ヤキモチとかって何とも想ってない子には妬かないよね」

全身が心臓になったみたいに、身体全部が脈打ってる気がした。
震えてるのかもしれないけど、雅紀くんに抱き締められててよく分からない。

「Aちゃんは、みんなと全然違う」
「.....」
「もうずっと、誰にもこんな気持ちになってなかった」
「.....っ」

声を出そうとしてるんだけど、息だけが漏れる。
でも声が出たとしても、何を言えば良いのか分からない。

ただただ、沈黙が続く。
真っ黒い海が、鈍く光る。

「Aちゃん明日、仕事だよね？」
「えっ...あ...うん...」
「そろそろ帰らなきゃね」

私を抱きしめてた腕が解かれる。
熱かった身体に、風が吹き抜けた。

それがやけに寂しくて、もっと近くに居たくて

だけどどうしようもなくて、じっとしていたら

両脇の下から雅紀くんの両腕が入って来て思いっきり持ち上げられ、私の身体はあっという間に立ち上がってた。

「行こっか」
「.....うん」

するりと手を繋がれて、砂浜を歩く。
ザクザクと、砂が鳴る。
スニーカーの中に砂が入る。

雅紀くんが立ち止まって、スニーカーを脱ぎ逆さまにして砂を出した。
私も同じ事をして、クスクス笑い合った。

バイクに戻りヘルメットを被って、雅紀くんの後ろに乗る。

しがみつくのは一瞬躊躇ってしまったのは、来る時と理由が違う。
さっき雅紀くんに言われた事や、された事を思い出してしまったから。

「Aちゃん、掴まって」
「...うん」

腰に腕を回し、細く大きな背中に頬を寄せてみた。

雅紀くんの息遣いも、鼓動も、伝わって来て
もしかしたら私の想いも伝わってしまうかもしれないって思ったけど

全部、伝われば良い...って思った。

受ける風が、数時間前とは全然違う。
流れる景色が、全然違う。
何もかも、全然違う。
どれもこれも違うはずなんて無いのに、全然違う。

その全てを感じたいと思った。

雅紀くんの肩甲骨に咲く、赤い花。
じっと見詰めて目を閉じる。
残像で瞼に浮かぶ、赤い花。

信号待ち、抱きついてる腕にギュッと力を入れるとその腕に雅紀くんが触れてくれた。

「Aちゃん」
「...ん？」
「なんか、帰りたくないね」
「えっ？」
「なんてね」

信号が青になり、バイクは走り出す。

帰りたくない...

同じ気持ちで、また目を閉じる。