PARACAGE 5th【ars】 (ページ20)

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160.同じ空の下。ページ20

「星、見えてる空だってあるし」
「...うん」
「今が昼の空だってあるし」
「...うん」
「何が同じなのか分かんない。同じ空なのは、一緒に見てる空だけじゃんね」

ずぅっと、空を見上げながら雅紀くんは話す。
こっちを見ずに話す。

私に話してるの？
それとも...他の誰かに話してるの？

「あんなの、単なる気休めじゃん」

ポツリと

雅紀くんが呟いた。

「どこに居たって同じ空の下に居るんだからなんて、...キレイゴト過ぎて笑っちゃうよね」

ドラマかよ、って彼はちょっと乱暴に小さな声で吐き捨てる。

「...前に言ってた人...？」

本当は聞きたくないのに。
でも、聞いてもあげたくて。
耳を塞ぎたいのに、耳を傾けたい。

繋がれた指先に少し力を入れると、雅紀くんもキュっと握り返して来た。

「俺、どこにも行かないでなんて言えなかった」
「......」
「『同じ空の下』って言ったのは、俺」
「え...？」
「まぁ、俺が何を言ったってあの人は行っちゃったんだろうけどね！」

やっと、雅紀くんが私を見た。

「でも...もし行かないでって言ってたら...って後悔した。せめて、寂しいって素直に言うべきだった」
「......」
「空港で泣いてるあの人に俺、行くって言ったのは自分でしょ？なんて言っちゃったし」
「......」
「その瞬間あの人、吹っ切れたような顔になったの」

具体的に思い出したのか、彼の眉間に薄く皺が入った。

「あぁ、間違えた...ってすぐ気付いた。あの人が欲しがってた言葉は、きっとそんなんじゃなかった」

私がもう、雅紀くんを見てられなくて視線を繋がれてる手に落とす。

「すっごい笑って『今までありがと』って俺から離れてったあの顔が忘れらんないの」
「......」
「ちょっとカッコ付けただけだったのに。女々しくなりたくなかっただけなのに」

何も言えない。
ただ頷きながら、声を聴く。

「まさかサヨナラになるなんて思ってなかったから、心の準備も無いまんまで」
「......彼女、だったんだね...」

やっと開いた喉は、分かり切った事を訊いてしまう。

「うん」
「...そっか...」
「忘れたいんだけど、全然忘れらんない」
「......」
「忘れ方が、分っかんない」

ハッ、雅紀くんが自嘲するように軽く笑った。

「何でこんな話しちゃってるんだろ、ごめんね」
「...良いよ、何でも聞いてあげる」
「マジで？俺、甘えちゃうよ？」
「良いよ。いくらでも甘えて良い」
「やったー」

コツンと彼は、私の頭に自分の頭を乗せた。