思考回路と泥水【短編集】

募る想いは/on ページ16

「あのー、武正さん...」

「んー？どうしたの名前」

「距離、近くない...です...?」

「んー、そうだねぇ」



やっとの思いでそう問えば、肩に顔を乗せている彼からそんな気の抜けた返事が返ってきた。
たまたま休みが一緒で、DVDで映画でも観ながらゆっくりしようかという結果になり今に至る。
武正の部屋に入って、準備してたまでは良かったんだけどね。
さぁ観るぞってなってソファに座ろうとしたら「名前、ここおいで」って先に座っていた武正に手招きされて、膝の上をポンポンと叩いてて。
そこからは緊張しすぎてあまり記憶がない。
映画の内容も役者のセリフも右から左。
耳にすら入らずドキドキとした時間だけが過ぎていく。
後ろから抱きしめたまま顔を肩に乗せてるものだから、笑ったときに息がかかる。声も響く。髪が当たる。お腹に回された腕から体温が伝わる。
こんなのドキドキしないわけがない。
でも武正は特に気にしてなさそう。
いつもそうだ。武正ばっかり余裕で、私は照れてばかり。
なんだか自分だけがドキドキしてるみたいで悔しくなる。
でも、その余裕を崩せるような余裕が自分にあるかといったら、あるわけがない。
甘んじてこの状況を受け入れるしかないのだ。


「名前ー」

「え、なに...?」


突然、映画に夢中だった武正が私を呼んだ。
なんだろう？
暑い...？お腹すいた...?
ぐるぐると考えていると、肩が軽くなった。



「名前、心臓からすっごい音するよ」

「え、...あ...」


考える間もなく背中に耳がくっつけられる。
ばれた！恥ずかしい、恥ずかしいよ、どうしようどうすればいい？
思考は焦りでショート寸前だ。
きっともっと速くなる。ただでさえ緊張してたのに、それに加えて恥ずかしさもこみ上げてきて、私の心臓は爆発するんじゃないかってぐらい速くて、顔は暑いし、武正は笑ってるし。
あぁもう自分が何を考えてるのかもあやふやだ。
でも、とても幸せで、武正とこんな尊い時間を過ごせてることが幸せで、心臓が爆発しそうなのだって愛おしいぐらい。
だから、だから。



「たけ...」

「んー？なぁに名前ちゃん」

「...すき」

「おれも好きだよ、名前」




好きって伝えたくなった。
武正がすき。
そう素直に言えば返事と共にキスが飛んできた。




募る想いは
(心臓が飛び出るぐらい甘ったるい)

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