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45:Never Change24〈あの人のぬくもり〉 ページ45

「開けてください。」



2つの箱をあけた。



「・・・これ」



私は言葉を失った。


そこには長年雅紀が愛用していた時計と、
原稿を書くときに使っていたペンがあった。



「俺が面会に行ったとき渡されました。


『Aのもとに帰れるよう頑張るつもりだけど・・・
もし、万が一。俺に何かあったときは、潤兄さんからAに渡してほしい。』


と。」



私は、マホガニーの重厚で大きな机に向かい、どんなときでも姿勢正しく涼しげで、
落ち着いた表情のまま黙々と執筆をしていた雅紀を思い出した。


若い作家のほとんどがパソコンを利用し、データで作品をくれた。
しかし、雅紀はパソコンを利用した執筆をすることは少なく、ほとんどの場合、
このペンを使うために最適な紙を選び、特注で作った原稿用紙に書いていた。


そして、どんな時でも、この時計を腕につけ、
このペンで原稿を書き続けていた。


いや、外す時がある。
私を抱くときだけ。



「どうして外すの?」



と聞いたことがある。
雅紀は私を抱きしめ、耳に唇をつけて言った。



「Aといる時だけは、時間を忘れたいから.・・・」



潤さんが話しを続けた。



「このペンと時計は、作家であった祖父の物でした。


祖父はどの孫のことも、俺もでしたが、可愛がることはありませんでした。
しかし、雅紀にだけは特別でした。


自分に似た容姿や性格に加えて、幼いころから本が好きで、
文章を書くことも上手だった雅紀に、親近感を覚えたからでしょう。


雅紀は祖父と同じ道を歩きました。
学校も、作家になり賞を受賞したことも。


このペンはドイツで、時計はスイスで職人に特別に作らせたものだと聞いてます。


祖父が亡くなるとき。
祖父は雅紀だけを枕元に呼び、遺言と、莫大な遺産と共にこのペンと時計を
渡しました。


雅紀は、祖父の死後、両親始め、親戚等全ての骨肉の争いに巻き込まれることを懸念し、
莫大な遺産の相続を放棄しました。
が、歴史的にも価値が高い、このペンと時計だけは誰にも譲りませんでした。」



潤さんは煙草を灰皿に押し付けて消した。



「実は遺書には、Aさんの事も書いてありました。」



「え・・・」



「<ありがとう、幸せに>と。」



私は潤さんを見つめていた。

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PP(プロフ) - ゆーなんぴー♪様コメントありがとうございます\(^o^)/更新遅いですけど、時々遊びに来てください!頑張りますわ☆ (2014年7月27日 16時) (レス) id: 833a9907ff (このIDを非表示/違反報告)
ゆーなんぴー♪ - 初コメです!Lovesituation大好きです!更新がんばってください!(「・ω・)「楽しみにしてます! (2014年7月27日 11時) (レス) id: 8204ed6687 (このIDを非表示/違反報告)
PP(プロフ) - ナンシー様いらっしゃいませ。コメント有難う!もっと毒づかれるかと想ってました(笑)お互い方向性が違いますものね。読んでくれて本当に有難う! (2014年6月16日 22時) (レス) id: 833a9907ff (このIDを非表示/違反報告)
ナンシー・ハジェンズ(プロフ) - 私には真似できない技術がいっぱいありますね(´д`|||) 何かは書く気がありませんが、目標が明確になった気がします。優しいタッチの文がいい感じです♪ (2014年6月16日 22時) (レス) id: 5c4ab849ae (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:PP | 作成日時:2014年6月2日 22時

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