484 ページ23
以前訪れたことのある役員室の前で、一度立ち止まる。
コツ、コツ、とノックをすると、
「どうぞー」
顕嵐の明るめな声が聞こえた。
取っ手を持ちドアを開けようとした瞬間、
ガチャ、
向こうから先にドアが開けられた。
ふと顔を上げた瞬間、スーツを着た綺麗な女性と目が合う。
バチッと見下ろされた感覚。
「…初めまして、秘書の山中です」
向こうから声を掛けられ、
「お世話になっております、妻のAです」
私からも名乗ると、ジッと真顔で見つめられる感覚がした。
「どうぞ」
スッと中へ通され、ようやく顕嵐と対面。
「よく来たね」
仕事中にも関わらず、顕嵐は優しい笑顔を向けてくれた。
顕嵐と会話をする前に、
「…あ、すみません」
来客用のカップでサッとお茶を出してくれる秘書の山中さん。
お茶を置くと一歩後ろで待機するように立ち止まった。
見るからに"出来るオーラ"を放っている。
「…どうしたの？」
デスク前の椅子に座ったまま、顕嵐が見つめてくる。
「…急に、ごめんなさい」
「いいよ。…斗愛は？」
「斗愛は、今日預けてる」
誰に預けたかは言わなかった。
やましい事はないけれど。
顕嵐は、きっと私の母親か誰かにだと受け取っただろう。
「今度、お礼しなきゃな」
優しく笑った。
「……常務、次の会議まで30分です」
「分かった」
私の知らない人と、自然に会話をする顕嵐。
それが仕事なのだと、まざまざと見せつけられる。
一方で、私がここに来た理由が、たかがバレンタインのチョコを渡す為だなんて。
余計に、言いにくい。
家で渡せばいい、仕事の邪魔をしに職場に押しかける必要はない。
だけど、海斗に言われた言葉が気になって…。
"浮気されるぞ？"
"あいつ、会社で相当モテてそうだよな "
目の前の山中さんもそうだし、さっきの受付の人もそう。
顕嵐の職場には、たくさん綺麗な女性がいる。
話しにくい心境のまま、俯いてしまう私に見兼ねたのか、
顕嵐は山中さんの方へと振り向いた。
「…ごめん、Aと二人きりにしてもらっていい？会議には間に合わせるから」
顕嵐の言葉に、山中さんはニコリとも笑わない。
冷静な表情のまま、
「…畏まりました」
とスマートに部屋を退出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 861人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りりちゅん(プロフ) - いつも更新楽しみにしています！完結してしまうのはとても寂しいですが応援しています！ (2017年5月25日 1時) (
レス) id: c321fe6a1f (このIDを非表示/違反報告)
踊れる人大好き芸人(プロフ) - nnm2000さん» 応援ありがとうございます！頑張ります！ (2017年5月17日 21時) (レス) id: 698c405fce (このIDを非表示/違反報告)
nnm2000(プロフ) - くすぐったくてキュンキュンします…頑張ってください！！ (2017年5月16日 19時) (レス) id: 432ef5cf0a (このIDを非表示/違反報告)
踊れる人大好き芸人(プロフ) - ゆうなさん» コメントありがとうございます。褒め言葉として受け取って、邁進します！（笑）本当は書いてる方も恥ずかしいのですが、徐々に慣れました…。 (2017年5月15日 14時) (レス) id: 698c405fce (このIDを非表示/違反報告)
ゆうな(プロフ) - 読んでるこっちが恥ずかしくなる！頑張って下さい！！！ (2017年5月15日 11時) (レス) id: 9b29f9a6ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：踊れる人大好き芸人
| 作成日時：2017年5月5日 20時
