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ゝ・弐 ページ40

「お嬢さん、お願いが」
「うん、何?」
「食べて、欲しいのです。私のことを」


──ああ、クソ。どうしてそんな残酷なことを、そんな優しい瞳で言えるんだ。


顔を顰める私を、やっぱり燕は困ったような笑顔で見ていた。


「言ったでしょう、お嬢さん。死んだほうが、良いものなんです」
「……燕」
「貴方を呪うくらいなら、貴方に呪われて死にたいのです」


燕は、揺らがなかった。まっすぐに、これまでに無いほどまっすぐに、私を見ていた。


「……お母様、泣いちゃうよ」
「そう、……ですね」
「何か伝えたいこととか、ある?」
「……愛していた、と。愛していると」


私の瞳に、燕の目が向けられる。……いや、違う。私の瞳に、母を重ねて見ているのだろう。私は瞬きをなるべくしないように努めて、燕の血に濡れた頬を撫でた。


産土神信仰。今回彼らの行った任務は、その呪霊の討伐だった。それは土地神だった。本来ならば、一級呪術師が向かうはずの案件だ。


完全に、彼らの身には余るもの。──本来ならば、雄くんはそこで死んでいた。


しかし呪霊は辛くも祓われ、雄くんは生きている。燕がいたからだ。私が彼に、二人を守れと命じたからだ。


とどのつまりは、私が燕を呪ったのだった。


口の中が苦い。臓腑が焼けるようだ。いっそ涙も出ない。呪われることの苦しさを、私が誰より知っていたはずだ。それなのに、それなのに。


「ごめんね、燕」


その言葉しか、出てこなかった。


許して欲しかったわけじゃない。ただ、謝りたかった。


それなのに燕は笑っていた。「なぜ謝るんですか」なんて言って、弱い力で私の手を握り返して。


「お嬢さん、幸せでした。幸せでしたよ。ありがとう」


私は堪らず、シーツに顔を伏せた。


「……私もだよ、お父様」


燕は何も言わなかった。少し切なげに微笑むだけだった。

ゝ・参→←晩夏はきっと別れの季節・壱



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ニノ崎(プロフ) - めっちゃ面白いです,,,好みドストライクです!これからも応援しております。後,伍話目の美美美ー美・美ー美美ってまさか某マルハーゲ帝国()のパロですか() (2021年3月2日 18時) (レス) id: 159ece0998 (このIDを非表示/違反報告)
ぱるさん(プロフ) - みもなるーと。さん» 丁寧なご感想たいへん嬉しいです、ありがとうございます!燕は扇一の自立に必要な犠牲だったのでちょっと……ね……これから扇一夢主、ガンガン男前に磨きがかかって参りますので何卒お楽しみ頂ければ幸いです! (2021年2月26日 19時) (レス) id: 96fc810d06 (このIDを非表示/違反報告)
みもなるーと。(プロフ) - なんだかクソデカ感情を向けてしまった(?)夢主に恋してしまうかと思ってしまいましたね… 最近は天候が崩れやすいのでお体に気をつけて無理せず頑張ったくださいチュチュ… (2021年2月26日 17時) (レス) id: d641c5035a (このIDを非表示/違反報告)
みもなるーと。(プロフ) - な、なんだこの小説は今まで生きてきた私へのご褒美かご褒美なのか。夢主のどこか達観した想像力などに惹かれました。燕さん私の推しだったのに食べちゃいましたね…やはり愛とは、呪いなのかしらと再認識できた気がします。素晴らしい小説をありがとうございます。 (2021年2月26日 17時) (レス) id: d641c5035a (このIDを非表示/違反報告)
ぱるさん(プロフ) - 43yomi1さん» ありがとうございます〜〜!!!更新頑張ります!! (2021年2月26日 16時) (レス) id: 96fc810d06 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぱるさん | 作者ホームページ:なしv  
作成日時:2021年2月25日 0時

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