〜溢れる愛情〜【pkmn短編】

これが私の癒し方*タブンネ ページ1

｢もう、こんな時間か…｣


自室が薄暗くなっていくのを感じ、窓の外へ視線を向ける。

つい数分前まで空は夕焼けに染まり、橙色の光が一面を照らし出し広がりを見せていたが、時間が経つにつれゆるやかに紫から紺へ暗くおりている。展開された風景は、夜へと変貌していくことを意味しており、同時に一日が過ぎるという締めくくりにふさわしい景色だった。

　いつまでも幻想的な景色に見惚れたまま眺めていたいけれど、生憎(あいにく)私はポケモントレーナーの資格を取得するため、試験勉強をしなければならない。まだポケモンを持つ年齢ではないので、相棒と外で遊ぶ時間も限られていて少しばかり物寂しさがあった。


私、(名前)の相棒───タブンネは、今の状況をどう思っているのだろう。


最近、勉強に追われているとはいえ構ってもらえなくて不満や寂しさを募らせている頃だろう。
モンスターボールの中で、ぽつんと取り残された相棒。複雑な気持ちにさせてしまったのではないかと想像すれば、申し訳ない思いになる。


｢わっ、どうしたの？ タブンネ｣


不意に、ベッドに置いてあったボールがポン、と軽快な音を立てた後タブンネが姿を現す。
きょろきょろと周囲を見渡し、机と参考書に視線を送った後、続いて私の方へ目線を捉えた。くりっと丸く青い瞳にきゅっと結んだ愛らしい口元。
表情から察するに、気を悪くした風には見えないけれど、思いきって口を開きかけた時。

｢タブンネ〜｣

おもむろに私の手のひらに触覚を当て、途端に柔らかい光に包み込まれそれは波紋のように広がった。
不思議なことに、今まで感じていた試験に対する不安や、タブンネと遊べなくて寂しがっていることも、不安が少しずつ軽くなる。手を繋いだ感覚と錯覚する程、優しく温かい。


｢さっきの技は…｣


言いかけて、ある情報が頭を過る。


───いやしのはどう。
相手の体力が回復する補助技。


参考書をよく読んでいて助かった。タブンネは、触覚を当てることで相手の状態が分かる。補助に特化しているので、成る程医療にも重宝される訳だ。
｢いやしのはどう｣が、人間にも効くことに驚いていたが、先程の行動で納得している自分がいた。


｢もしかして、大丈夫って励ましているの？｣


私は尋ねると、大きく縦に頷くタブンネ。


｢最近遊べなくて、ごめんね。勉強が一段落したらまた遊ぼう！今日はありがとう｣


日頃の感謝を込めて。
ぎゅっと、お互い抱き締め合った。

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