【ツイステ】覆水不返

第３話 ページ5

誰かが通りかかるのを待つべきか、歩き出すべきか考えあぐねる。
見た限り窓は見当たらないので、時間帯もわからない。そこでふと、左手に携帯電話があることに気がついた。
今時の携帯には位置情報という便利な機能がある筈だ。慌てて画面をつける。

日付は今日と変わっていなかった。

そのことに安心したのも束の間、左上に圏外と表示されているのが視界に入る。一瞬で全身から血の気が引いた。



圏外。



電波が届いていない、届かない場所だということだ。つまり、ここが何処なのか調べる事はできない。その事実に落胆し、肩を落とすと同時に時刻へと目を向ける。……時刻もおかしい。
先程トイレの中にいた時は4:44で今の時刻は21:18。17時間進んでいる。トイレと廊下の栄目に一体何があるというのか……廊下の方へ数歩踏み出したその時だった。

背後でバタン！という大きな音が鳴った。音に驚いて体がびくっと跳ねる。その音の正体を察し、慌てて振り向くが遅かった。

私の目の前で扉は“壁と同化して”消えていったのだ。

“人は驚きすぎると声が出なくなる”という話を聞いたことがあるが、まさにその通りだ。
目の前で消えて行くドアノブに慌てて手を伸ばすが、触れることは出来なかった。
手のひらに当たったのは石の壁のざらりとした感触。


『嘘でしょ……』


ぽつり、と声が漏れた。
中にいればよかった。ドアを閉じてもう一度開けていたら帰れていたかも。そんなことを考える。
しかし、後で悔いるから後悔というのだ。今更思ったところでもう遅い。泣きたくなる気持ちを堪えて、必死に考えた。
ここで突っ立っていても、現状は絶対に変わらない。

深呼吸をして心を落ち着けた私は、誰かに助けを求める為、人を探すことにした。









建物は広かった。先が見えない廊下に窓を見つける。そこから空が見え、その暗さは携帯の時間表示が正しいことを証明してくれた。

歩き回ってひとつ気になるのは、“どこもかしこも造りが少し古めかしい”ということだ。
ギィ、と音を立てて開きそうな“木製で鉄装飾の付いた扉”や、あちこちに取り入れられたアーチ建築や石柱が目を引く。この時間に見るには趣がありすぎるだろう。

静まりかえった廊下に響くのが、ペタペタという自分の足音しかないのが更に恐怖心を煽る。







それにしても人が全然いない。







人の気配がない。









…………怖い、なぁ

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