【追いかけてホールから出る】 ページ22
ナイルさんを追ってホールを出た。広い廊下は左右に続いていて見通しが良いはずで、今数秒前にナイルさんは廊下に出たはずなのに。
ナイルさんは私の視界には映らなかった。
わけがわからない。今さっきまで目の前にいたし、去ったのをみてすぐに追いかけた。そんなに距離は空いていなかったのだから、この長い廊下のどこにも影も形も見えないなんてありえない。でも実際にナイルさんの姿は見当たらなくて、その不可解な現象が目の前で起きたわけで。
ーー僕がその願いの代償にしたのは“君の存在”。君に関わった全ての人間の記憶の中にいる“君という存在”と引き換えに、君をこの時代に送ったんだよねーー
ーー僕には君をもう一度あの時代に返す理由がないんだよねーー
ナイルさんの言葉を思い返す。
ナイルさんは私が望んだ願いを叶えるためにここへ送ったと言った。
“私の現代での存在と引き換えに”
彼の言い方から考えると、たとえナイルさんを説得して元の世界に戻してもらったとしても私の事を知る人はいない。“全て” というのがどこまでなのか私にはわからないけれど、言葉の通りであるとしたら、きっと戸籍や職場など生きていくのに必要なもの、それらがないのだろう。人の管理がきっちり出来上がっている現代日本でそれは致命的だ。
考えれば考えるほど、“戻れない” ということを確信する。
気づいた時にはもう遅い。
全身から血の気が抜けるような感覚に陥り、徐々に脚に力が入らなくなった。
私はその場にぺたんと座り込み、立ち上がる事ができない。
「帰れない」「居場所がない」という言葉が、頭の中を埋め尽くす。
考えても考えても思考はまとまらず、私はぼんやりと床を見つめた。
「ねぇ、ちょっと……なにしてるの」
誰かが自分の前に立っている。しかし顔を上げる気にはなれなかった。
放っておいて欲しい。しかし、声の主にその気はないようだった。
「あのさ……床じゃなくて、せめて椅子に座りなよ」
そう言うとその人物は私の肩を組んで、無理やり立たせた。立った拍子に、視界の端に色が写る。
それは綺麗な若草色だった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 85人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
小崎相良(プロフ) - Koma?さん» お返事遅くなりすみません！ありがとうございます！ (2022年1月22日 18時) (
レス) id: 6783c5a7bd (このIDを非表示/違反報告)
Koma?(プロフ) - ちょーぜつ面白いですね！最近めいこい見始めて最初に出会った作品がこれで良かったです！ (2022年1月16日 11時) (レス) id: 286de14237 (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 二酸化酸素さん» ありがとうございます！嬉しいです！ (2021年7月21日 22時) (レス) id: b1e523f101 (このIDを非表示/違反報告)
二酸化酸素(プロフ) - 本当にゲームをしてるような気分になりました (2021年7月19日 1時) (レス) id: f6be19e74d (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 鈴華さん» 楽しんでいただけたなら幸いです(o´艸`)！こちらこそ閲覧頂きまして、ありがとうございました！ (2020年8月4日 23時) (レス) id: 5536140bcb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小崎相良 | 作成日時：2020年2月23日 10時
