第漆話_言伝 ページ12
話を聞いて混乱する。人間でも物の怪でもない存在の可能性が高いというのは流石に予想はしてなかった。未確認生物や宇宙人かもしれない。
私は言葉が出てこなかった。
『……』
「取り敢えず、僕が言いたいのはナイルって奴がこの世界にいるって事と、アイツが人間でも物の怪でもないって事。普段は何処にいるのかとか聞いてみたけど、はぐらかされたよ」
『……なにか、言ってましたか?』
ナイルさんから何かあるかもと思って尋ねた。私の言葉に鏡花くんは視線を泳がせる。その表情は困惑が現れていた。何かを聞いたんだ。彼は何かを聞いて、その言葉を伝えて良いのかを悩んでいる。
しばしの沈黙の後。鏡花くんは意を決したように小声で呟いた。
「…… “たのしいね”」
『たのしい……』
どういう意味がわからない。たのしい筈がない。無一文持ち物もない状態でこの時代に突然放り出されて、楽しめるわけがない。
何の保証もない先も見えない状態でどの部分を楽しめというのか。不安、戸惑い、怒りなど複雑な思いを抱え私は眉間に皺を寄せる。
そんな私の様子を見た鏡花くんは、はぁっと大きく息を吐く。
「……あんたがなにを思ってようと、僕には関係ないけどさ。あんたの複雑なその疑問も思いも、本人に尋ねるべきだと思うよ。あんたが一生懸命考えたって、解決できないのはわかってるじゃないか。大体、いるかいないかわからない奴を探す段階から一歩前進したんだろ」
『……』
「問題が一気に解決することなんかない。1つずつ段階を踏んで解決へと向けて進んでいけばいいじゃないか。それとも、なに?あんたが抱えているのはそんな簡単に解決できることなわけ?」
『……できないと思います』
「……それなら次への選択肢は1つだろ。探してた奴が見つかったならさ」
そう言って鏡花くんは口角を上げた。
ニヤッという効果音がつきそうな含みのある笑い方だ。
鏡花くんにつられてわたしも口角が上がる。言葉に踊らされて悪い方にばかり考えていたが、事態は前に前進しているのだ。彼は私の心持ちを正し、導いてくれたのだと実感する。
『鏡花くん』
「なに」
『ありがとうございます』
その言葉と共に私は頭を下げた。
鏡花くんへの感謝の気持ちをしっかりと込めて。
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小崎相良(プロフ) - 閃光のまりあんぬさん» コメントありがとうございます!不定期な更新ですみません(>_<)藤田さんカッコいいですよね!少し不器用な優しさにキュンときます(o´艸`) (2020年2月20日 9時) (レス) id: b334f4b37a (このIDを非表示/違反報告)
閃光のまりあんぬ - とっても面白いです!! 更新頑張ってください! 楽しみにしてます☆ ちなみに私は藤田さんファンです…! (2020年2月19日 23時) (レス) id: 68c769878e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年8月13日 19時