Another:森 ページ49
Aちゃんの診察をして戻ると春草が「どうされたんですか」と尋ねてきた。
「ちょっと知り合いの診察をしてきたのだよ。なに、心配はないさ」
「鴎外さんのご友人ですか」
「友人というほどまだ親しくはないけれどね。覚えているかい?以前、馬車に乗せた “Aちゃん” というお嬢さんだよ」
「えっ……何かあったんですか?」
「うん?」
「大丈夫なんですか?まさか、怪我でも?」
目を見開いた春草は質問に答える前に質問を重ねてくる。焦っているような困惑しているような表情だった。
普段、他人には興味を持たない春草が他人の心配をしているとは……珍しいこともあるものだ。
「怪我はしていないよ。体調が悪かったみたいでね、様子を見る限りは発熱かな」
「発熱……」
「まぁ、身体の疲れからくる熱のようだったからね。しっかりと休息を取れば問題はないよ」
「……そうですか」
「心配なら、明日お見舞いに行って来ると良い。心優しいお嬢さんだ。きっと喜んでくれるよ」
「いえっ、俺は、別に」
「はは」
照れたように視線を逸らし、目線が泳ぐ。
その姿を見て、動揺している事が手に取るようにわかった。あの無関心な春草が、女性に興味を持っているのだ。珍しいこともあるものだと感心する。
あの日、馬車の中で会話をしている様子はなかった。常盤ではポツポツ話している姿は見かけたが……その時に興味を持ったのだろうか。
話を聞く限り、彼女と同じような境遇にいるお嬢さんだった。
しかし、Aちゃんは子リスちゃんよりも少し大人だ。先の事を考え思考する表情、自らの境遇を把握しようとする姿。数年長く生きているだけなのに、随分と大人っぽく感じた。……もちろん、性格の違いもあるとは思うのだが。
まぁ、春草とは僕の知らないところで何らかの接点があったのだろう。でなければ、春草が他人の事を、あのような表情で心配するとは思えない。
先のことはわからないが、僕はAちゃんがこれからどう行動するのか見守ることにしよう。
僕が彼女と関わって心動かされたように、Aちゃんが関わることで心動かされるものもいるだろう。
それが誰かはわからないが、その行く末を見守る傍観者も悪くないだろう?
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小崎相良(プロフ) - あららさん» コメントありがとうございます!私も芽衣ちゃん好きです!こちらこそ、これからも宜しくお願いします! (2019年6月30日 20時) (レス) id: bb37bfea9e (このIDを非表示/違反報告)
あらら - めちゃくちゃ面白いです!めいちゃん好きなんで話に出てきて嬉しいです!これからも更新を楽しみに待ってます! (2019年6月29日 23時) (レス) id: 3866ce7f97 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年6月15日 0時