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風呂で頭を洗ってやることだって、添い寝をしてやることだって、少しばかり太いロープとやけに嬉しそうなおまえを山奥まで運ぶことだって、重たい生肉を土に埋めることだって。そう、何でも“してやれる”。そんなことを常々考え、そしてその中から聞かれても問題のない部分だけを適当に掻い摘んで、あとは愛嬌を潤滑油にして他人の脳味噌へ流し込む。それが彼の常套手段である。
彼は、“おまえの為”であれば前述の通り何だってする。世間の云う倫理に沿ったようなことも、また逆なことも。それは結果的に確かに“おまえ”の身を助くが、“おまえ”自身をも助くとは限らない。そんな観点で見るならば、彼の云う“おまえの為”とは、ある種の免罪符ともいえるやもしれない。
彼が見ているのは、自身に助けられた柔い“おまえ”、そして自身に懐き、情景の念でも抱くような小さな“おまえ”、その二つ程度。弟妹のように弱く、淡く、庇護欲を何ともどうしようもなく掻き立てる、哀れな“おまえ”を彼は欲している。欲された通りに在れば、“おまえ”はその一切を愛される。たったそれだけの幸せな関係性が、蚊帳の外からは多少異常に見えるらしく、そのことから一部の人間に密かに敬遠されることも。まあ、そんな者共も一度蚊帳の内に誘われてしまえば、それまでの忌避感などは綺麗さっぱりに忘れることができようが。
これが異常とは、彼は思っていない。否、世間だって彼を糾弾するなんて可笑しな真似はしない筈だ。彼はただただ、弱いものに献身的なだけ。可哀想な誰かのために身も心も捧げられ、自身の主張を過度に押し付けることなどもない、正に理想的な人間な訳だから。
彼がおまえの非行を止めないからどうした、彼がおまえの希死念慮を咎めないからどうした。彼はただおまえを認め、受け入れている、たったのそれだけだ。それを何故周りが、何よりおまえが、非難できようか。彼は優しいから、おまえと周りが望む献身とやらを、見事に実践してみせてくれているというのに。ああ、なんと卑しいことか。おまえ達は、なにゆえかこの彼の優しさだけを差別する。
でも、彼はそれでいても尚やはり優しいから。またおまえが彼を選んだなら、おまえ達を許す間もなく肩を抱き、こう囁く。
「おまえが満足したなら、それで良いからなぁ」、なんて美しい愛だろうか。
【役職】魔法省 異界分断管理科
【使い魔】シマリス
一般的な使い魔シマリス。個性は特になく、強いていえば身体が割と強いという位。彼との関係性は可もなく不可もなく。愛という愛を感じるような間柄ではないらしい。
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