第67話 ページ20
桜乃side
「え、えっと……、ごめんなさい」
顔が、どんどんと熱を持つ。思わず俯きながら、私はヘルメットを彼に押し付けた。
「何そのイタズラ……。超可愛いんだが」
「ふぇ!?」
その言葉に勢いよく顔をあげれば、甘ったるい笑みを浮かべるAさんが私を見つめてた。
また、いつもの笑みだ。
彼が何かしらアクションを起こす前の、甘い笑み。付き合ってからずっと逃げてしまっていた彼の手は、普段なら私に触れようとするのに、今日に限ってヘルメットを素直に受け取ってしまう。
「んじゃ、帰るわ」
そう言って、バイクを走らせようとする。
今日に限って、彼は何もせずに帰って行ってしまいそうで、私は咄嗟に口を開いていた。
「ま、待って」
思わず呼び止めて、服の裾を引っ張った。
何をしよう、なんて考えていなくて。驚きで目を丸くしているAさんと目が合って、私は彼の服の裾を握り締めたまま、口をもごつかせてしまう。
何か言わなくちゃ。
でも、何も言葉が出てこなくて。
「あ、あの。え、えぇと……」
言葉が出ない代わりに握り締める力ばかりが増えていく。
静かな場所には私の狼狽える声しかなく、彼は小さく笑みを浮かべながら私の事を見ていた。
「……っ」
言葉が見つからなくて、唇を噛んでしまう。
そんな私を見つめる彼は、優しく私の名前を呼んだ。
「桜乃ちゃん」
ゆっくりと私の前髪をかき分けたAさんは、そのまま私の方へ顔を近づけて来て……。
ふわりと香る煙いバニラと共に、温かくも柔らかい何かがおでこに触れた。
すぐに離れたそれが、Aさんの唇だって気付くのにそう時間は掛からなくて。私は驚きで口を開いたまま、意地悪そうに笑うAさんを見つめてた。
「どう?俺もイタズラしてみたんだけど」
「!?」
「あははっ!」
思わずおでこを押さえて、笑うAさんを見上げれば、余裕な表情を浮かべて言うの。
「ゆっくりでいーよ」
おでこを押さえた私の手を指で突く彼は、バイクに片肘を突いてさらに言葉を落とした。
「桜乃ちゃんのペースに合わせてやっからさ」
「Aさん……」
柔らかい笑みを浮かべてそう言った彼は、また意地悪な笑みを浮かべて悪戯に言うの。
「ただ、何ヶ月も待てる程、俺は大人じゃねぇからな」
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バンビ(プロフ) - 真理さん» 現在更新のペースがかなりゆっくりになってしまっていますが、時間を見つけて更新をしていきますので、今後ともよろしくお願い致します。 (1月25日 23時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
真理 - バンビさん» 続きまだですか? (1月24日 7時) (レス) id: e1f8464f5a (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - リコさん» ありがとうございます。今後も楽しみにして頂ける様に更新していきます。 (2021年7月18日 11時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
リコ(プロフ) - 続きを楽しみにしてます! (2021年5月9日 6時) (レス) id: 8b5e530447 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - 紗衣さん» ありがとうございます。非常にゆっくりな更新になっていますが、楽しみにして頂ける様に頑張ります。 (2021年4月10日 0時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バンビ | 作成日時:2020年9月4日 12時