生きる理由は…… 【中原中也】 (ページ18)

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悪戯ページ18

太宰side

「隣、いいかな？」

彼女は此方を振り返らない

その代わりに

「どうぞ」

という無機質な声が帰ってきた

「ありがとう」

彼女は恐らく常連なのだろう

何も言わなくてもグラスが出ていた

「名前を聞かせてもらっても？」

「Aです・・・貴女・・・」

名字を言わないのは隠さなければいけないからかな？

まあ、其処を聞き出すと話せなくなるだろうな

「私は太宰治と言うんだ」

其処からは他愛のない話を続けていた

彼女は人見知りだということがわかった

時間をかけると彼女は沢山喋る

特に上司の話をするときはとても嬉しそうだった

それが何となくつまらない気もするが彼女にとってそれだけ大切な存在なのだろう

お互いに趣味の話をしたり、お酒の話をしたりしているとあっという間に時間は過ぎていった

途中、彼女の袖や襟元から包帯が見えていた

私のような者は少ないだろうから恐らく何らかの怪我だろうが・・・・・其れにしては包帯の量が多すぎるのだ

彼女は着々と帰る準備をしていた

＿＿＿行かせたくない

其れで咄嗟に引き止めてしまった

「もう行ってしまうのかい？」

口走ってしまったことはもう無かったことには出来ない

ああ、君のせいだ

寂しそうな顔をして

「はい・・・仕事が早いもので・・・」

なんて言うから

行かせたくない、なんて思ってしまうんだ

彼女は会計を既に済ませていた

私に丁寧に一礼すると、バーのドアに手をかけた

「Aちゃん」

彼女に覆い被さる様に彼女の前に立つ

当の本人であるAちゃんは驚いた顔をしている

「どうされたんですか？」

急いでいるようで、Aちゃんは早口でそう言った

其れが少し悔しくて

私の方を見てほしくて

意地悪をしたくなった

「ひゃっ・・・」

彼女の首に触れる

包帯を労るように

君を知るように

ゆっくりと

「なんで・・・すか」

彼女はなんとか絞り出したか弱い声で抗議の声を出す

其れがまた可愛くて

つい、彼女の耳元で

「怪我はちゃんと治さなくてはいけないよ」