アモーレ、たまごたち！

〃 ページ30

「伊賀崎先輩〜」

戸越しに一年生の高い声が部屋へ滑り込む。筆を走らせていた手を止め、孫兵はそっとそちらを向いた。

「どうしたの？」

「三好さんが、お話したいことがあるって」

三好、と聞いて彼の体が強ばった。今回の天女様だ。
「そ、れは」と彼はこもった声を出す。戸の向こうで一年生が困ったような声を出したのがわかった。情けない、先輩だって言うのに、と孫兵は唇を噛む。

「＿＿＿まぁ、もう三好さんならお部屋にいらっしゃいますけどね」

そう三治郎が悪戯っぽく言ったのと同時、天井板が外れ床に落ちる。それに釣られるように一人の少女がふわりと床に落ち、痛そうな音を立ててしりもちをついた。

「えっ！？え！？」

「いってぇ〜……ふぅ、あ、は、はじめまして！だよね？伊賀崎孫兵くん！あー、顔がいい……けど頑張って話すね……えっと、単刀直入に言います！仲直り大作戦に協力してください！」

ずい、と身を乗り出して熱くそう話す彼女の顔があんまりにも必死で、孫兵は思わず吹き出してしまった。今度は彼女が困惑する番だ。「え？」と目を丸くして不思議そうに孫兵を見つめた。

「僕が天女様を怖がるから、わざわざ上から？」

「うん、通してくれないかと思って」

「まさか！貴方が悪い人じゃないのはわかってます。きり丸の件も見てたし、何より藤内がそう言っていたから」

そう言って彼は彼女に笑いかけた。

「でも、ありがとうございます。僕も先輩と仲直りしたいです、協力させてください」

────────

さくさくと土を踏む音が響く。同期は皆委員会だからと居なくなってしまって、一人で校内を散歩することにしたのだ。ふ、と目を上げた先、土の上をするすると滑る小豆色に目を見張った。ジュンコだ。天女が来て以来孫兵が部屋から出すことはしなかったのに……。

「ジュンコ、ダメだろ出てきちゃ！」

そう言って駆け寄った瞬間だ。「確保！」と横の茂みから大声が聞こえ、そこから飛び出してきた何かにあっさりと捕まった。

「竹谷先輩捕まえたー！」

「ジュンコお手柄だねー！」

そう笑うのは、以前までずっと一緒に活動を続けていた生物委員会の後輩たちだ。あれだけ怖がっていた孫兵も居る。……皆、笑顔で。
茂みの方には三好さんがいて、親指を立てていた。

「ほんと、凄い人だな……」

疑り深い三郎も気を許すわけだ、と納得して、俺は後輩の頭を昔のように撫でてやった。

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