〈完〉本能の領域

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「A、手出して」
「...？」






外回りで少し帰りが遅くなると言ったユンギさんが帰ってきたのは、9時半を回った頃で。
ジャケットを脱ぎ捨ててそのままキッチンに直行してきたユンギさんは、私を手招きしてリビングへ。何かあったっけ？不思議に思いながらユンギさんに着いていく。

ソファーに二人並んで座って、何を言われるのだろうと思っていればユンギさんが手のひらを見せて手を差し出してきた為、私も同じように手を出した。
くすくす笑ったユンギさんは逆、と私の手をひっくり返して手の甲を指の腹で優しく撫でた。






じゃあ目閉じて、彼から飛ぶ注文に従って目を閉じると左手の薬指に冷たいものが通された。
涙が出そうになった。






「ユンギさん...！」
「...目開けていいなんて言ってない」
「ごめんなさっ...」
「ん、だめ」






勝手に目を開けた私に眉を寄せたユンギさんは、だめ、と口角を上げて私の瞼にキスを落とした。
恥ずかしい、最近のユンギさんは甘すぎる。

どさ、とソファーに倒されると、ネクタイを緩めながら私の上に乗るユンギさんにドキドキと胸が鳴る。
私の指と自身の指を絡めるユンギさんの指には、輝くシルバーリングが見えた。






「ふ、泣いてんの？」
「嬉しいんです...っ」
「目擦んなよ」






嬉しくてぼろぼろと零れる涙をユンギさんは優しく拭ってくれる。
そして私に優しいキスを落として甘く笑った。






「俺と結婚してください」






私達がもっと幸せになるのは、また少し先の話。






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