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「シッマ、もうちょい我慢せぇよ。キャパオーバーして泣きそうになっとるやん。」
「やかましい。こんなん見て我慢できるか。お前の匂いが移りすぎとるやんけ。」
うつ…？と名前を呼ぶ私に、にこりと貼り付けた笑みを寄越す彼。その笑みを見たのは何時ぶりであったか。
確か、コネシマに振られたあたりを最後に、この笑顔の記憶は途切れている。
「よかったなぁ、大好きなシッマが来てくれたで」
「なん、え？うつ、？」
「こっち見ろや、A」
先ほど突き飛ばしたはずのコネシマが、私の右腕を引き、強制的に目を合わさせる。
数年ぶりに見た彼の目は、記憶の中のそれよりもずっと澄んだ色をしていて、海底に沈みこませた
「好きやで。」
は、と思わず声が漏れる。
疑問符が脳内を埋め尽くした。
数年前、私が「友達」という枠組みから抜け出すことを是としなかったのは彼で。
宅飲み中タバコをふかし始めた彼と目が合って「好きだ」と零した私に、「お前は…ちゃうやろ」とこちらも見ずに突き放したのは彼で。
その後彼の親友と付き合っても何も言及することなく、姿を現すこともなくなったのも彼で。
今更なんだ、という怒りと、悲しみと。その他に芽生える別ベクトルの熱を沈ませようと唇を噛みしめれば、彼の親指が私の唇を撫で、「痕つくからやめろ。」と静かな声で諫める。
「なんで、このタイミングなの。」
やっと出た言葉は縋るような声音に乗せられて彼に放たれた。
彼はそれに臆することなく、いつものようにこちらを真っすぐと見て答えた。
私は彼のこういうところが好きだった。彼の誠実さが伺えるこの癖を、今日ばかりは恨んだ。
「お前は、他の奴と結婚しても俺を選ぶと思ったからや。」
それに賭けた。と、彼は言った。
賭けなんて言葉をあまりにも真っすぐな目をして言うものだから、言葉と表情のアンバランスさに私の拙い思考はついていくことができない。
「お前、まだ俺が好きなんやろ。やから、こうやって俺を心から拒否することができへん。」
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作者名：白詰クサ | 作成日時：2024年2月26日 23時
