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「…やっと、会えた、」
『え…』
息を切らして、髪は乱れ、羽織っているパーカーは肩からずり落ち、お店の物であろう鍵を持ったまま
携帯を握っている私の手首を掴む、治くんが目の前に居る。
数メートル先の閉店後のおにぎり宮の扉は、開けっ放しだ。
「ちょぉこっち来ぃや」
私の手首を握ったまま、足早に来た道を戻る治くん。
『…っ、あの、待っ、』
「待たへん。聞きたい事も話したい事もあんねん
やっと捕まえたんに逃がすわけないやろ」
開けっ放しだった彼のお店の中へ足を踏み入れた。
治くんは、後ろ手に扉をピシャリと閉めた
店内は防犯用に数箇所明かりがついているだけだし
扉が閉まった事で、余計に暗い。
『…えっと』
「A、」
『えっ、え?』
好きな人に呼び捨てされることって
こんなにドキッとするものだったっけ。
「なんなん、ほんまに」
ジリジリと距離を詰めてくる治くんに比例するように
私も後ろに下がる
「なんで急に店来なくなったん」
『それは、』
「他に男でも出来たん?」
後退るにも限界がある。トン、と腰に当たるテーブルで
もう行き止まりだと気付いた時には遅いのだ。
両側は治くんの腕で閉じ込められ、すぐ目の前には彼の顔。
どうしたらいい、どうしたらいいの。
「ツムか?それとも角名?…いや、あぁ、赤葦くんか」
『違う、そんなんじゃ、』
「ほんならなんやねん」
『…もう、迷惑かなって思って』
「……いつ誰がAのこと迷惑や言うたん?」
『…言ってません』
「よな?」
うんと頷くと、治くんは私の首筋に顔を埋め溜息を吐いた。
突然すぎる急接近に身体が硬直していると
彼はそのままボソボソと話し始めた
「散々好きだのなんだの言ってその気にさせといて急に居なくりよって…なんなん?
もう俺ん事なんかどーでも良うなったん?」
『そんなこと、』
「ならなんやねん」
『私は、』
「ん」
『私は、ずっと治くんのことが、その、』
「俺が、なんや」
『……………言わなくても分かるじゃん…』
「分からん。ちゃうと言うて」
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作者名:OX | 作成日時:2021年8月27日 8時