オタクなお兄様は、実に変人です。【桃】

▼お願いごとを任された結果 ページ32

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「それじゃあ、俺は行くね」


会話にひと段落つくと、阿部さんは社長室で切れていた飲み物を取りに行く途中だった事を思い出したとかで部屋を後にした。

私も確認が取れた事だし、長居する理由もないから部署に戻ろうとしたら呼び止められる。


「あ、ねえA」


ふとした名前呼びは未だに慣れなくてドキッとする。


「は、はい？」


振り返ると机に試作品を置いた大介さんが、「お願いがあんだけどさ」と同時に振り返る。


目線が合うと、靴を鳴らして寄ってきて、え？なに？と戸惑う私。



「あのね、今日真っ直ぐ家に帰るよね？」

「……え、まあ」



特に予定もないし、帰ってゲームしたいし。



「だったら録画してほしいアニメあってさ。俺ついうっかり忘れちゃって、でも帰る暇なくて」

「そんなに忙しいですか？」

「あーうん、まあね」


私はほぼ定時に終わって帰ってるというのに、大介さんが早く帰ってきてるのを見たことがない。

そんなに忙しくて大丈夫なのかなって心配になってしまった。



「で、頼めるぅ？」

「それは大丈夫ですけど。あ、でもお部屋…」



絶対に入るなって言ってなかったっけ？


そう聞けば、「もう全部バレてっし。良いよ入ってくれて」と許可取りできてしまった。


「あ、でも！アニメグッズは触んなよ」

「わかってますよ！」








ということで、お兄さまこと大介さんのお願いごとを託された私は残業？それ美味しいの？状態で、引き止められそうになりながら向井さんを上手に交わし帰宅した。




「さて、と！」



大介さんの部屋の前で腰に手を当てて立つ。


なんか緊張するなぁ。


入っちゃダメって言われてたところに今度は入ってと言われたけど、ご本人さまが居ない部屋に入るのはなんだか気が引けるというかね。



「でも、録画頼まれたし！」




よし！A行きます！



「お邪魔しま〜す」



ドアノブを握り、そっと部屋の中へ入る。


微かに香るこの匂いってなんだろう？

なんか懐かしいような、心地良い匂い。




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