わたしの同居人。 ページ13
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「ここが新たな新居です」
連れて来られたのは極普通の木造アパートだった。フョードルは階段を上がり、202号室と書かれた部屋に入る。私はゆっくりとその部屋に足を踏み入れた。
「あなたの同居人の、ホーソーンくんです」
玄関の前には、ひとりの男性が立っていた。
乱れた髪に、恐ろしいほど空虚で、無機質な瞳。
同居人なんて聞いてない。
そういう意味を込め、フョードルを見る。
彼は愉快そうに笑った。
「良いではありませんか。
後々、あなたと彼には組んでもらいますから。今のうちに仲良くなってください。それでは」
フョードルは颯爽とした足取りで去って行った。
仲良く、なんてふざけている。
彼がどういう計画を立てているのかは知らないが、私の目的はただひとつしかないのだから。それに私には仲間を作って仲良しごっこしている暇なんてない。
「……あの、退いてもらっても良いですか？」
自分でも、初対面の人間に随分生意気な云い方をしてしまったとすぐに反省した。ホーソーンさんは無言で退く。私は部屋の鍵を閉め、靴を脱いだ。
重い沈黙。
本やテレビなんてものが存在しないこの部屋で、その沈黙はただただ辛かった。彼はジッと床を見つめている。
「……あ、の。あなたはいつから、此処に？」
私の問いに、ホーソーンさんはゆっくりと顔を上げ「わかりません」と答えた。
「全ては愛し君の復活の為に」
「愛し君……？」
要するに彼には愛する人がいるということだろうか。復活、ということは恐らくまだ死んではいないはずだ。何らかの理由で何らかの怪我、それか病を患った愛し君を復活させたい……といったところだろうか。
「……そんなに大切に想える人がいるのですね……」
彼は誰かへの復讐ではなく、ただ愛しい人を復活させようとしている。私にはその純粋さがあまりにも眩しく、羨ましかった。
「貴女には、いないのですか」
「……いました。けれど、死んでしまいましたから」
「……大丈夫ですか」
「え？」
「泣きそうですよ、貴女」
余程酷い顔をしていたのか、ホーソーンさんが云った。その表情は無表情のまま変わらないが、しかし、その声にはどことなく優しさが滲んでいるような気がして、私は何ででしょうか、と微笑んだ。つもりだった。
でも結局は笑えていなかったのだろう、私の心を見透かすように、ホーソーンさんがへんなかおですね、と失礼もいとわず云って退けたので余計に泣きそうになった。
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