果実は熟れて2 ページ32
私は一度死んだ人間だ。
そして、太宰Aになってから、何度か瀕死を経験している。
その度に、私の魂はこの身体から抜け出しかけてから身体に戻って癒着を強める。
瀕死を乗り越える度に、周囲の人間に繋ぎ止められている。本当の意味の“絆”なのかもしれない。
だが、あくまでもそれは不完全。現に、魂がこの身体から何時乖離してもおかしくない状況だ。
だから澁澤を殴れた。だから澁澤に此方から触れる事が出来た。
私は一度死んだ人間。そして、特異点そのもの。おまけに今は魂が剥がれかけ。
この状況を作り出す為に、『道化の華』を限界近くまで使い続けた。
ある種の賭けだったが、如何やら奇跡がおきたようだ。
「……それ以上は駄目!」
鏡花ちゃんから悲鳴の様な声が聞こえるが、私はこの足を止める訳にはいかない。
「A、やめろ……」
織田作さんが止めに入ろうとするが、その隙は作らない。
「僕が……っ、ぐっ」
芥川君は立ち上がろうとするが、まだ立てない。
「成程、君も死を通過した者か」
澁澤はくつくつと笑う。
「予想の外側にいる者がまだ居たとは」
愉しげに彼は笑った。
「何と云う事だ。死を通過した君もまた、生命の輝きを秘めている……!」
澁澤は恍惚とした笑みを浮かべながら、私の手を離さずに踊り続けている。
「不思議な存在だ、君は」
遠のきそうな意識の中、私はステップを踏み続ける。
「結晶として蒐集品に加えるのもいいが、君自身を手元に置いておくのも捨て難い」
興味を惹く存在になれたようだ。これは僥倖と、足を踏ん張った。
あと少し、あと少し耐えれば――。
その時、何処かからか、青白い閃光が降ってきた。
それは私達、否、澁澤を目掛けて向かってきた。
閃光にぶつかり、澁澤から手を離されてもう動く力も残っていなかった私は抵抗も出来ずに宙を舞った。
轟音がして、地面が抉れた。
私が地に落ちる寸前、ふと、しなやかで逞しい白い獣と目が合った。
――おかえり。
もう声も出なかったが、その四文字の形に口を動かした。
獣がぐる、と喉を鳴らした。
――後は頼んだ。
私は其の儘地に落ち、意識を失った。
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夢秋(プロフ) - 蒼さん» ありがとうございます! 一歩間違えたら夢主ちゃん太宰さんに閉じ込められるくらい無茶してます。早く起きないかなー(どの口が) (6月21日 3時) (レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 主人公ちゃんんんん目覚めないと太宰さん泣いちゃうよ!?!?ついでに私も泣くよ!?(?)BEASTめっちゃ好きだけど!!作者様へ神作品です最高ですありがとうございます (6月13日 12時) (レス) @page50 id: 699f0917a9 (このIDを非表示/違反報告)
夢秋(プロフ) - いけるしかばねさん» ありがとうございます! これからしばらくリメイクに入るので実質回想シーン→BEASTで夢主なかなか起きないことになります( ͡ ͜ ͡ ) (2023年2月3日 14時) (レス) id: 28dc9b7eb5 (このIDを非表示/違反報告)
いけるしかばね - ぬあぁぁああ起きろよ主人公!!いやbeastもいいけど嬉しいですけど!!! 続き楽しみに待ってます頑張ってください! (2023年1月31日 16時) (レス) @page50 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
夢秋(プロフ) - 蒼月さん» ありがとうございます!! イベントとか終わったらぼちぼちリメイクしながら再開します!! (2023年1月24日 2時) (レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夢野秋 | 作成日時:2021年11月1日 2時