【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

対峙 ページ19

「うっ……」
細い通路、即ち下水道に入った途端、敦君はさっと鼻と口を手で覆った。異能による五感の強化がなくとも、辛そうだ。
これから自分の異能と戦うというのにこんなところで体力と精神力を使わせるのは可哀想だ。
「臭いが辛い？ そんな貴方に『道化の華(消〇元)』」
私は巫山戯た口調でそう云うと、既に(車酔いの為)発動していた異能の効果を三人に広げた。三人の肌に花の形をした痣が浮かび上がる。三人には見せないようにしているが。
「臭く、無い……？ 若しかして、これがAさんの異能ですか？」
敦君は手を降ろす。
「まあ、そんなところだね。ああでも」
「もがっ……」
私は持っていた手拭いで敦君の鼻と口を覆った。丁度掃除中の某人類最強の兵長のような感じだ。
「嗅覚を誤魔化してるに過ぎないから、ここの空気はあまり肺に入れない方がいいよ」
なんで下水道を秘密通路にしたのだろう。せめて上水にしてくれ。そう心の内で文句を云いつつも、足を進めていく。

「着いたよ」
マンホールを開けると、鼠が数匹逃げていくのが見えた。噛まれなくてよかったと思いつつ、後続が無事に上がれるように手助けをする。
全員マンホールから出たところで、改めて景色を見る。濃霧の向こうには製鉄所が見えた。
芥川君が工場の方を見据えた。
「どうやら……待っていたようだな。僕の存在を感じられるのも道理か」
羅生門が芥川君を見下ろしていた。
「……己が力を証すため、あらゆる夜を彷徨い、あらゆる敵を屠ってきた。だが盲点だった。戦い倒す価値ある敵が、こんな近くにいたとはな――……」
芥川君はそう誰に云うわけでもなく口にすると、霧の向こう側に消えていった。
一人で行く芥川君を、敦君は非難がましい目で見ていた。

鏡花ちゃんは、芥川君が去った方とは逆に目を遣る。
「……今はそれぞれ、すべきことがある」
敦君は鏡花ちゃんの視線を追った。
夜叉白雪がそこにいた。
鏡花ちゃんは短刀を抜く。鞘がからんと音を立てて転がった。そしてそのまま、自ら夜叉に向かって行った。
「鏡花ちゃん！」
拳銃を手にして加勢しようとした敦君に、鏡花ちゃんは短く云う。
「あなたも、すべきことをして」
「！」
敦君は獣の唸り声に素早く振り返る。白い毛並みの巨躯が迫っていた。
敦君はよく知っている、この白虎に銃弾は通らない事を。例え傷を負わせても、即座に回復する事を。
敦君は銃を床に落とすと、悲鳴にも近い雄叫びを上げながら白虎に向かって行った。

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