【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

吐息 ページ17

「あと数秒遅れてたらと思うとゾッとするよ」
昇降機(エレベーター)の中、重力を感じながら呟いた。先程の衝撃音は夜叉のものだった。
「鏡花ちゃんと違って、君達の戦闘は異能頼りなところがある。これを機に鍛えておくといい」
私が云うと、二人は同時に言葉を詰まらせた。
敦君は、床を見ると何か云いたげにしていた。それに気付いたのか、芥川君が口を開いた。
「異能者襲撃を想定した非常通路だ。霧もここまでは入れぬ」
敦君は意外そうな表情をすると芥川君に目を向けた。
「あの霧は一体、何なんだ？」
「……あれは龍の吐息だ」
「龍？」
龍(ドラコニア)の吐息と云ったところか。
虎(敦君)はとことん龍に縁があるらしい。

沈黙の中、芥川君が鏡花ちゃんに声を掛ける。
「鏡花……お互い異能が無い今なら、お前の暗殺術で僕を殺れるぞ」
「…………」
芥川君の挑発に、鏡花ちゃんは答えない。芥川君は嗤って続ける。
「どうした？ 僕との因縁を断ち切りたかったのではないのか？」
「鏡花ちゃんは、もうお前のことなんか何とも思ってない！」
敦君は流石に苛立ったのか口を挟む。その声が昇降機の中で反響した。敦君は敵意の篭った目で芥川君を睨み付ける。それを芥川君は冷ややかな目で見る。
「……異能が戻っていないこの状態で決着をつけるか？」
敦君は眉をぴくりと動かすと、息をゆっくり吐き出した。
「芥川、白鯨(モビー・ディック)での冷静さはどうした？ 此処で決着をつけたところで太宰さんの期待には添えないぞ」
「何？」
今度は芥川君が眉を動かす番だった。もし今、二人が、芥川君だけでも異能が戻っていたら争いに発展していただろう。変な汗が腿裏を滑り落ちた。
「まあまあ落ち着き給えよ二人共。目的は一致しているんだ、この霧を止めるべく作戦でも立てたら如何だい」
埒が明かないので私が間に入ると、敦君は「目的……」と呟くように云った。
「澁澤？」
「奴の臓腑を裂き、命を止める。他に横浜を救う方法があるか？」
芥川君の宣言に、敦君は即座に云う。一緒にするなと云うように。
「僕達は最初に『殺し』の選択肢を入れない。探偵社は、そういう仕事はしないんだ」
それを聞くと、芥川君は鼻で笑う。敦君はただ続ける。
「でも、どうしてもやらなければならないなら……」
敦君はしっかりと芥川君を見据えて云った。
「――覚悟はしている」
迷いの色の欠片もないその瞳を見て、芥川君は押し黙った。

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