【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

合流 ページ12

探偵社に着けば、敦君と鏡花ちゃんが裏口から逃げ出す所だった。遅かったか、と思っている暇はない。国木田さんは大丈夫だろう、と逃げ出した彼等の方に向かう。
「お二人さん！」
私が呼びかければ二人は振り向いてくれた。
「Aさん！？」
「貴女は……！」
「兎に角、車に乗るよ！」

鏡花ちゃんがアクセルを踏み込み、車が急発進する。途端に、背後から轟音がし、振り向けば探偵社の入った四階から煙が上がっていた。いっそ綺麗だと思うくらいの赤がちらちらと見えた。
「……国木田さん、大丈夫かな」
敦君は不安気に呟く。それと対照的に、鏡花ちゃんはあの轟音にも気を取られることなく運転を続けながら答えた。
「今の私達にとって最優先事項は、澁澤龍彦の排除」
「澁澤龍彦……」
心ここに在らずと、敦君はその名を口にする。鏡花ちゃんは運転の支障にならぬ程度に、物問いたげに敦君を見遣る。
「澁澤龍彦って、どんなやつなんだろ……」
敦君はぽつりとこぼした。
「そう云えば、探偵社への依頼って元々は澁澤龍彦の捜索だっけ？」
後ろを警戒している私が口を挟めば、敦君は何故それをと云わんばかりに振り返った。
「先の異能戦争の時に仕掛けて回収し忘れた盗聴器から拾っちゃってね」
「ええ……」
すまんね、と謝っているんだか謝っていないんだかわからない謝罪の言葉に、敦君は口の端を引いた。
「それと排除。先程、異能特務課から依頼された」
鏡花ちゃんは前を見ながら補足する。
「こんな事されたらね……捕まえるよりも排除の方が安全だねえ」
私が零すと敦君は「排除……」と重く呟いた。

「僕は……その澁澤龍彦ってやつがどんな悪いやつでも、必ず殺す必要があるとは思えないんです。なんとか無力化出来る手立てがあれば……そうだ」
ふと敦君が気付いたように顔を上げる。
「太宰さんならこの霧を止められる、あの人を助け出せばきっと――」
縋るように続ける敦君に、私は現実を云い放つ。
「あの澁澤龍彦をこの横浜に招いたのは兄だよ」
「え？」
鏡花ちゃんは酷く冷たい眼差しのまま前を見ている。
「抑ね、可笑しいんだよ。マフィアはね、六年前の龍頭抗争――横浜裏社会では最悪と呼ばれている抗争で澁澤龍彦を滅した筈なんだ。彼奴が潜伏していた建物ごと、中也さんが潰したんだよ。あれを喰らって生きている人間なんて居ない」
敦君がおずおずと訊く。
「“中也さん” ってあの……『重力』の……」
既に太宰さんから聞いている、か。
私は首肯すると続けた。

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