天の海をゆく白鯨のありて２ ページ30
「潜入の時は機動力が大切って事だよ、敦君」
私が補足すると、腑に落ちたのか「成程」と返事が返ってきた。
「そう云う事。それに敦君は白鯨の中に捕らえられて土地勘がある。加えて、最悪失敗しても、君なら殺されず捕えられるだけの可能性が高い」
敦君は静かに耳を傾けた。
「君以上の適任者は居ないよ。やってくれるかい？」
敦君は膝に手を置き、俯いて暫く黙っていた。呪いの言葉と闘って居るのだろう。膝の上の手に力が入る。
「太宰さん」
敦君は決意を固めて太宰さんの瞳を見た。
「やります」
太宰さんは敦君の様子を見ると、頬を緩めた。
会議室を出ようとすると、敦君に呼び止められた。乱歩さんは敦君と入れ替わりに会議室を出ていたし、太宰さんは安吾さんに会う為に私に詳しい作戦の説明を任せて先に出た。会議室にいるのは私と資料の内容を一生懸命頭に入れようとしていた敦君だけだった。
「Aさん！」
「何だい敦君」
敦君は妙に畏まっていた。
「あの時、僕に託してくれて有難う御座いました！ 貴女が託してくれたから、貴女が背中を押してくれたから僕は前に進めました」
ああ、横浜焼却作戦の時か。
「そんなに畏まらないでよ、寧ろ感謝すべきなのは此方だ。敦君、ちゃんと届けてくれて有難う」
私が頭を下げると、敦君は「そんな、とんでもない」と顔を真っ赤にしてあたふたしていた。可愛いなぁ……。
「いやあ、だってマフィア滅茶苦茶敦君に非道い事してきたろう？ 踏んだり蹴ったり刺したり。そんな中私は敦君を助けもしなかったし、見ていても何もしなかったもの」
「でも陰で僕達を支えてくれていたじゃないですか」
敦君の曇りなき笑みが返ってきた。眩しい。圧倒的光属性。これは闇も焦がされちゃう。
私があまりの眩しさに手で影を作っていると、敦君は落ち着いた声で訊いてきた。
「マフィアの裏切り者への報復は苛烈だと聞きました。それなのに……危険を犯してでも僕達を支えてくれたのは如何してですか？」
決して尋問されている訳でもないのに、力強い瞳の奥の光に圧倒される。敦君は無意識なのだろうが、逃げることを許さないとばかりに圧があった。だがそれは人の心を優しく開くような優しい圧。鏡花ちゃんが電車内で受けたそれやモンゴメリちゃんが白鯨内で受けたそれと恐らく同じ物だ。敦君が主人公たる理由がはっきり判る、そんな圧だ。
そんな圧を受けて考える。
私は何故、命を賭して救済に奔るのだろう。
ああ、そっか。
私は――。
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夢秋(プロフ) - 百笑咲夜さん» お恥ずかしながらその事実を全く知りませんでした。二次創作自体グレーなものですので、今後お気をつけて楽しい創作ライフを送ってください！ (2023年1月21日 0時) (
レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
百笑咲夜 - 初コメ失礼致します。プリ小説というアプリで活動していた者です。感想じゃなくてすみません。主様の作品とほとんど同じ内容の小説をプリ小説で書いていました。すぐに小説は削除します。大変申し訳ございませんでした。 (2023年1月7日 19時) (レス) id: f1d74042d6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - ユキさん» 応援ありがとうございます！ クトゥルフのSANチェックがアレですからね……そして夢主ちゃん、元々勝手に姉を名乗っています。どこかの十人兄弟の長兄のようになってますw (2021年8月19日 21時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - とても面白いです！SAN値チェックがあったの笑いました。「どけ！！！！私はQちゃんのお姉ちゃんだぞ！！！」が好きですｗｗｗ１D１０/１D１００には驚きました。ラヴ君、恐るべし・・・。頑張って下さい！最新待ってます！ (2021年8月19日 21時) (レス) id: c2037b5d01 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - 夢女子S氏さん» ありがとうございます！！ やったー！！ 頑張ります！ (2021年8月13日 2時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢野秋 | 作成日時：2021年8月7日 20時
