鈴蘭/美和巴 ページ13
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「 ……僕、Aのことなんか____ 」
幼い頃とは違い、自分が悪いことくらい自覚出来る程度には成長したけれど。やはりその甘い声で紡がれる先の言葉は聞きたくなくて、耳を塞いでしまっては駆け出して。
……これで何回、二人、はたまた一人に叱られたんだっけ。数えるのは、両手では足りなくなる頃にやめてしまった。過去に思いを馳せる暇が有る訳でも無いから、と言い訳をして、思考を隅に追いやって。なるべくこの先のことを考えないようにして、また先延ばしにして、繰る繰ると不幸と不安だけが回っていく。
自己嫌悪を繰り返して、結局彼に縋るのは何回目?答えなんて知りたくもない。惨めになるのは自分だけだもん、知ってる。
「 ……わたしだって、巴くんのことなんか 」
そこまで小さく呟いて、辺りを見渡して、僅かではあるけれど人がいることを認めては言葉を飲み込む。こんなことを聞かれて困るのは、わたしではなく巴くんだ。巴くんの関係がないところでまで、迷惑を掛けたくはない。
それにしても、ついこの間まではこどもの日だなんだと賑わっていたこの街は、ショーウインドウに飾られていた五月人形も、街のライトに括り付けられていた小さな鯉のぼりも。ぜんぶ片付けられて、随分と人通りも減って。まるで一時の夢であったかのような喪失感に襲われる。
いっそすべてが夢であってほしい、なんて願うのはお門違いかな、どうだろう。わかんないし、考えたくもないかも。
曖昧な思考をやめることなんてできなくて、大きな溜息を吐く。何時もだったら幸せが逃げるでしょ、なんて、少し大袈裟に可愛こぶりながら言って笑わせてくれる彼はここにはいないし、自ら彼から逃げたわけだから、慰めてほしい、なんて言って今更戻ることもできない。無駄なプライドが邪魔をしてくるから、こんなもの、捨ててしまえたらいいのに、なんて考えるけれど。生憎生まれてこの方、どれほど自分が悪くても、一度も自分から謝ったことなどないのだ。16歳になっても、自分が悪いときの正しい謝り方を知らずに生きてきてしまったから、最早どうしようもない。巴くんが、せっかく学園の寮から遊びに来てくれたのに不快にさせて、わたしはどうしたいのだろう。
「 ……はぁ 」
もう一度だけ、と決めて、最後に大きく溜息を吐いた。その直後、視界に入る交差点に、見慣れた長い
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蒸田。(むしだ)(プロフ) - くっ…蛍からチョコを貰いたい人生だった… (2019年2月17日 7時) (レス) id: f91a58f64c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花言葉企画参加者一同 x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2019年2月14日 22時