【文スト】黒のエンチャンター

４５「気持ち悪いんだよ」 ページ46

流がヒュッ、と息を飲んだ。ジャックナイフを持ったままの右手で学生帽が乗った茶色の髪をがしがしと掻きながら中原は言う。

「………何でかは知らねェが、手前が酷く強がってるってのは分かった。」

流は余裕ぶった笑みを浮かべたまま、硬直した。

「大体なァ、俺の元糞ったれ相棒やら江口みてぇで気持ち悪いんだよその一般人じゃ有り得ねぇ様な反応。俺が襟首掴んだだけであんだけ怯えた顔した癖によ。で、何だ？今なら友人のよしみで最期の言葉位聞いてやる。」

ジャグリングの様に中原の効き手と空中をくるくると行き来する、顔が写りそうな程鋭く美しいナイフ。

基本的に中原 中也というポート・マフィアの構成員は冷酷かつ残虐で、手前の命なら手前で守れ、守れないのは手前が悪い、というスタンスである。
まぁそれは飽くまでも他人であったらの話。
中原 中也という『人間』は内の人間に対しては人情深く、仲間内からは慕われる良い兄貴(あんちゃん)なのだ。

学校生活のスタートをナカヨシコヨシする気は無いという最低宣言で切った中原にクラス内で話せる人間がいる訳も無く、比較的よく話す奴＝友人という『内』に入ったのが流だけだった事もあるだろう。何より、江口の異能によって書かれた流の吐き出した言葉と今の態度が全くの別物だったから。

結論、殺すという結論は変わらないにせよ、『最期の言葉位聞いてやる』という発言に繋がったのである。

黒く厚い雲が大粒の雨を落とし始める。

流は乾いた笑い声を立てた。その瞳から落ちる雫は雨と混ざって濡れ始めた屋上の埃っぽい床に落ちて染みになった。

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