【文スト】黒のエンチャンター

４帽子と酒と煙草とやっぱり帽子 ページ5

翌週、月曜日。中原京雅もとい中原中也は、先週の事が嘘の様にご機嫌だった。

理由は彼の頭の上に乗った黒い学生帽だ。



昨夜のこと。

中原は育ての親である尾崎紅葉の部屋に呼ばれ、任務の調子を問われた。彼女は俺が１７の餓鬼共と机並べてオベンキョーなんかありえねぇだの何だのと言っていた彼を気遣って、愚痴の１つでも聞いてやろうと思ったのだが。



酒も煙草も帽子も無いつまらない生活だ派手な事は出来ねぇし奴等の喧嘩なんざ見てて欠伸が出るまるで子猫のじゃれ合いだ嗚呼ワインが飲みたいアモンティリャードが飲みたいあんな勉強が俺の何の役に立つってんだあゝ良い所に来た広津煙草寄越せ



以下省略。

つまり纏めると、【ただの】男子高校生という設定に合わせる為一時的に禁止された物が恋しいという事だ。

しかもこれ、素面なのでなおタチが悪い。アルコールの様な寝オチは無い。泣き疲れも無い。千鳥足も無い。覚ます酔いが無いだけにすこぶる正常な判断力、精神力で織り成される愚痴は正しくエンドレスである。
さらにスタミナお化けと来たらもう聞かされる側からしたら救いの無い念仏だ。

尾崎紅葉は異能の夜叉で中原の襟元をひっ掴んで何か黒い物と一緒に部屋の外に投げ捨てた。

バタンッと音を立てて閉まる扉。

何が何だかという表情で周囲を見渡す中原の目に、それは写った。



ーーやっぱ落ち着く…
…姐さんに御礼言わねぇとなーー

中原は黒の学生帽を被り直して意気揚々と高校への道を歩いた。



その後、授業中は帽子を脱げと言われた中原のテンションが思いっきり下がった事は言うまでも無い。

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