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その瞬間、女は膝から崩れ落ちた。
次第に怪物のような唸り声を上げ、痙攣し始めるその姿を呆然とながめている彼をまた、周りの人々は不思議そうに見物している。
しばしの静けさの後、やがて女は、ゆらりと彼の方を向いた。次の瞬間には、何事かを金切り声で叫びながら、一直線に彼目掛けて駆けてきていた。
周りの観衆が、悲鳴を上げる。
そうして彼が女の影に覆われる位に、距離が近くなった時。
女は、その辺りに本拠地を構えるマフィアの構成員に頭を撃ち抜かれた。
そのまま女の死体が彼へのし掛かる。
重さに耐え切れず倒れ込むと、そのマフィアは女が死んだことだけを確認してその場を去っていった。……まあ、大方自分達の領地で厄介事を起こされるのは嫌だった、といったところだろう。
そうして恐る恐る近寄ってきた近所の老婆に、彼は保護された。
「災難だったね、お姉さんが」
そんな軽い言葉を掛けられながら、老婆と共に生活すること一ヶ月。(そもそも姉ではないが)
新しく、老婆の知人が彼を引き取りにきた。
この位の年齢の子供が、前々から欲しかったのだという。
その男は、いつも赤い上着を身につけていた。キザな性格で、女遊びが激しく、自らの欲しいもの全てをその財力で手に入れていたのだ。
この男に引き取られてからの生活は随分と豪華だったが、代わる代わるやってくる見知らぬ女に"男が慈悲で引取ってきた身寄りのない可哀想な子供"として紹介され哀れまれベタベタと触られる、というのは彼にとっては過度なストレスになっていたので、プラスマイナスでゼロといったところだ。
一年程をそこで過ごしたものの……男の惚れた相手に「弟としてうちに欲しい」と言われ、今度は次の女へ引き取られた。
その際、彼は男に赤い上着を一着渡され、「彼女にプレゼントだと伝えておいてくれ」と言伝を預かっていたのだが……引き取られた時点で女の眼中に男は居ないようだった為、彼はその上着を自分のものとして勝手に拝借した。それが今身につけているものである。
女へ引き取られた彼は、やがてその甘ったるい猫撫で声で起こされ寝かされる生活にうんざりし、逃亡。
次に老夫婦の家へ匿ってもらえることになった。
だが、その夫婦が突如二人で心中してしまった為に、次はその親戚の叔母の家へ引き取られることに。……
しかし次はその叔母に孫ができた為、僅か三ヶ月で家を追われた。
そしてまた次。次に彼を引き取った人間こそが、今の職である武器屋の男であった。
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