【月刊少女野崎くん】気の利く女子高生は、修正担当アシでした。４

第？号 こんな未来がある ページ46

※捏造注意の未来


*

そんな未来があったかもしれない。

どんな未来があるのかはわからない。

こんな未来があることが理由で。

なんの未来かはわからなくても。


でも、私は、今を着実に生きている。


*


聞こえるのは、紙の擦れる音、電話のかかってくる音、切羽詰まった話し合いの声。

今日は、そんな普段の雑音も何割増しか多くて、そして大きい気がする。

束の間の平和ボケ。トントン、とボールペンの頭を叩きながら、ぼんやりと資料を眺める。

カレンダーを見てみれば、〆切まで時間があることにほっとする。
一番ほっとしているのは、実際に追い立てられる作家なのかもしれないけれど、それでも私はほっとする。

「先輩、なんか暇そうですね？」

「んー？」

隣の席の後輩には生返事。社会人になったことで、人見知りはいくらかマシになった。こんな現場じゃ年下と関わることが多い。

「連載も長いですよね、それでいていつまでも女の子の心を掴んで離さないんだから」

「本人がそうですからね」

私が深い意味をこっそりと込めて言うと、まだ新人である彼女はわあっと声を上げた。やっぱり乙女心の代弁者なんですねー！と。

代弁者かもしれないけどね。自分に向けられるものには全く気づかない。

「最近は、〆切にも余裕を持ってくれるから助かりますよ」

「あれっ、でも私小田原さんが〆切間近でキリキリしてるのって、あんまり見たことないですけど」

「最近、って言ったでしょ」

彼女は首を捻る。昔というと、高校時代まで遡るのだ、なんてことは言えないか。

その時また、プルルルル、と電話の音。

一人の編集者がそれを取り、やがて顔を上げる。


「小田原さーん、夢野先生からでーす」

「あ、はいはい」

噂をすればなんとやら。隣の彼女がクスリと笑う。私も微笑して、受話器を取った。


「はい、夢野先生？どうかされました？」


やっぱり『今日』がここにあって、

そしてこんな未来がある。


ーおわりー

あとがき→←最終号 勿忘草の花言葉

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す