増刊号 *恋する少年side ページ12
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Because Yuzuki's birthday.
空は晴れていた。――のに、今からやるべき任務のことを思うとため息が出てしまう。心の中だけ曇り空だ。
まったく、進んでやる気にならないことを押しつけやがって。
『これ』が私に託された時のことを思い出して、自然と相手に怒りを覚える。
どうしてこんな複雑なことになったの?
答えは簡単、そういう運命だったから。
ああ、やっぱり面倒くさい。
誰も悪くないのだけど、私はそう思う。
*
「若松くーん」
「あ、先輩」
背の高い彼は振り向いて、こんにちは!と元気に挨拶をする。
「どうかしたんですか?原稿はまだって野崎先輩は言ってましたけど」
「ああ、漫画のことじゃなくてね。これ」
スカートのポケットから『それ』を出し、差し出された彼の掌に無造作に置く。
すると、彼の顔が輝き出した。微笑ましいと思いながら、私は穏やかに笑ってみせる。
「野崎が、君にって。要は私は伝書鳩よ」
「あ、ありがとうございます!!」
「まあまあ」
中身は、まあ言わなくても分かるのだろうが、"声楽部のローレライ"の歌である。若松君の不眠症を直す魔法のアイテムだ。
……しかしまあ、野崎は、残酷な現実からどうして自分だけ逃げるかねぇ。私も連れていけ。
その恋の事実を知っているのは、現時点では恐らく私と野崎だけ。
目の前で無邪気に喜ぶ少年には、もう少しだけ夢を見させてやりたいと思う。
*
「ローレライには会えないの?」
「はい……やっぱり俺にとっては遠い存在なんでしょうね、さっぱりです」
「そっか」
「あ、でもこの間声楽部の部室の前を通ったんですよ。そしたら歌声が聞こえてきて、その後の記憶がないんです」
「…………」
あの、こういうのって事件に発展する……じゃないよね。うん、わかってる。
「目が覚めたら何故か教室にいたので、きっとローレライさんの歌で眠ってしまったんですよ。あの時だったら会えたかも……」
悔しそうに拳を握る若松君。
会えたとしても信じられずに歌聞いて寝て気付かないんだろうなぁ、と思う。
それでもいつかは知らなければならないわけだけど。
根拠もなしに、大丈夫だろうなんて思ってしまうから不思議なのだ。
「……そうだよね」
「え?何か言いました?」
「あ、ううん、ちょっと用事思い出して。じゃあね、若松君」
「はい!俺も部活です」
じゃあ、と手を振ると、彼は言った。
「ありがとうございました、小田原先輩!」
*
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スマトラ島のラフレシア - マカさん» ええまったく本当にそうですよね。爆ぜろという思いはきっと私も同じです←感動だなんて大げさですよ!むしろ戴くコメントに感動して打ち震えております。素敵な質問に続いて、コメントありがとうございました!無自覚?ええそうですとも!! (2015年8月13日 19時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
マカ(プロフ) - ふぉぉぉぉぁぁぁぁ!お疲れ様です!ラフレシアs!感動をありがとう!無自覚リア充すえながく爆発しててください!!←切実 (2015年8月13日 16時) (レス) id: 66f2c32cb1 (このIDを非表示/違反報告)
スマトラ島のラフレシア - 杜爽さん» ありがとうございます……!(レスは間違いでしょうか?)応援いただけると頑張れる気がします!!沢山の褒め言葉を戴けて、ちょっと照れますよ!ありがとうございます。これからも面白いと言っていただけるような作品をお届け出来るよう精進して参ります!! (2015年8月11日 18時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
杜爽 - 実紗封さん» 作者様!このシリーズ(?)とっても面白かったし、内容がとにかく素晴らしくて、これで終わってしまうのがすごくもったいないな~と感じてしまいました。゚(゚´Д`゚)゚。今までとても楽しく読ませていただきました!これからも応援してます!!そして頑張ってください (2015年8月11日 16時) (レス) id: 6baf7ec6df (このIDを非表示/違反報告)
スマトラ島のラフレシア - 実紗封さん» うわあああ質問ありがとうございます!!難しい問題ですね……笑 解答はしばしお待ちください! (2015年7月10日 17時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2015年6月19日 21時