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暫くの間、野坂の代わりに西蔭が病室に来ることが多くなった。しかしその手には、野坂が自ら選んだ店の商品が手土産として握られていた。
「おはようございます」
病室の扉を開けると、窓の方に顔を向けていた彼女が振り返った。西蔭は後ろ手で扉を閉めながら小さく会釈した。
「体、起こしてて良いんですか」
シーツから抜け出した白い脚がベッドの上にすらりと伸びている。どうやら一人で脚を動かそうと練習をしていたようだった。
リハビリの成果は既に目に見えて分かる。上半身の運動に取り組み始めてから一ヶ月で、今度は動かないままの下半身のトレーニングを始めたのだ。
西蔭が面会者用の丸椅子に腰を下ろすのを見て、彼女は枕元のノートとペンを手に取った。
キャスター付きの机を寄せてきて、そこにまっさらなページを開く。西蔭はその様子を静かに見つめ、彼女が野坂からもらったペンで言葉を並べるのを見守った。
『ありがとうございます』
『来てくれて』
西蔭の顔に、ふっと笑みが浮かんだ。文字を書いた当の本人は固く口元を結んでいるが、表情は柔らかく見える。しっかり食事を摂るようになって、適正体重に近付き始めているからかもしれない。
「体調が良さそうで安心しました」
『ごはんを全部食べられるようになりました』
『おいしいんですよ』
二人の視線はお互いに向くことはなく、ノート越しの会話は少し妙だった。しかし文字であれ言葉を交わせることは、彼女にとって大きな進歩だった。
「リハビリは順調ですか？」
『少しずつ足がうごくようになってきました』
会話を早く続けるためか、ただ思い浮かばないのか、彼女の言葉にはひらがなが多かった。
それが、彼女の顔立ちと相まって、自然と文字が可愛らしい声で再生されてしまう。西蔭は未だ知らない彼女の声を、ぼんやりと想像していた。
「そうですか。野坂さんにそう伝えておきます」
『あしたは』
と、黒いインクが、書いたばかりの文字を塗りつぶした。西蔭がちらりと視線を上げても、彼女の表情に変化はない。
『おねがいします』
もう一度ノートに視線を戻した時には、黒い塊の横に、そんな何の変哲もない返答が書かれていた。西蔭はもう一度彼女の顔を見つめた。パチリと、ヘーゼル色と表現すべきか宝石のような瞳と目が合う。
「…野坂さんなら、明日いらっしゃいますよ」
ラッキーカラー
あずきいろ
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
