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野坂が選んだプリンは好評だった。反応は皆無に等しかったが、西蔭が口元へと差し出したスプーンを咥え、咀嚼する動作を繰り返す彼女はいつもより生き生きとしていた。
野坂は照れた様子でプリンをすくう西蔭を見ながら弄ぶような笑みを浮かべ、満足そうに自身の分を完食した。
入院生活が始まって一ヶ月と少し。リハビリが始まると、ものの一週間程で明らかな変化が現れた。
外部からの刺激に対する反応が、より分かりやすいものになっていった。彼女は筋肉を動かす感覚を取り戻し、自らの力で手の指先まで動かすことが出来るようになった。
「はい、これは僕からのプレゼント」
そのタイミングで野坂は彼女に贈り物をした。キャスター付きの机にそれを置く。
四角く薄い何かが文房具屋の包み紙で包装されている。今の彼女なら、その細い指で包装紙を広げることが出来る。
「字を書く練習も兼ねて、ね」
彼女が手にしたのは、シンプルなデザインのピンク色のノートと、握りやすい太めのグリップが付いた白いボールペンだった。
野坂は彼女の代わりに包装紙を回収し丸めてゴミ箱に投げ入れる。
少し距離があったにも関わらず、紙のボールは曲線を描きゴミ箱の中に消えていった。彼女は目を丸くして、称賛ととれる視線を野坂に向けた。
「ふふ、簡単だよ」
短く答え、それ以上深掘りする必要も無いと野坂は彼女の手元を指差す。
「そのノートは烏丸さんの物だよ」
紙を弾き、めくる音。彼女はいくらかページを行き来してから、一番始めの片面に視線を落とした。
野坂は組んだ足に肘をついて、暫く彼女の動きを観察する。真っ白な紙に引かれた罫線をなぞるように動く瞳は、純粋に輝いていた。
そうして、一度ノック音が響く。ペン先が、弱々しく線を引く。
波線、ギザギザとした線、図形。彼女の頭に浮かぶことを整理するように、関連性の無さそうなモノが次々と並べられていった。
幼い子どもの様な姿。まるで彼女だけ、長い間ずっと時間が止まっていたように。
彼女は一人、何を思ってあの病室に居たのだろう。たった一人、無力なままで。
『のさかさん』
「…！烏丸さん…」
ノートの上に自身の名を指すひらがなが並び、野坂は思わず息を飲んだ。それまで考えていたことなど、一瞬で見えなくなってしまった。
字体であるとはいえ、彼女が自分の名前を呼んだ。彼女は自分を認識している。
胸が熱くなった。自然と息が上がっていった。
ラッキーカラー
あずきいろ
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
