第四章 ｶｸｼｺﾞﾄ ページ18
入院生活が始まって三ヶ月程が経った頃、彼女の面会に向かった野坂を驚かす出来事があった。
エレベータの中、階数を示すモニターを見つめながら目的の階層に到着するベルが鳴るのを待っていた。
柔らかな音色で短いメロディーが流れ、一歩前に進むと扉が開くのを待ち構える。
鉄製の扉の向こう、滑らかに開いたその先には彼女が居た。
厳密には隣にしっかりと看護師が付いていたが、生憎その服にしがみつくように不安定な脚で立つ彼女しか、野坂の目には映っていなかったようだ。
「か、烏丸さん…」
「こんにちは野坂君。すごいでしょう？Aさんのリハビリの成果」
その看護師が微笑むと、口元にはうっすらと数本のシワが浮かび上がった。
年齢など知る由もないが、同世代の子供を持っても可笑しくはないと予測できる。彼女の隣に立つと、娘を自慢げに褒める母親のようだった。
「…驚きました。出迎えてくれるなんて」
「Aさん、リハビリだけだと不安だって言ってね…少しずつ運動もしていこうと思ったんです」
勿論、その声を聞いていた。ただ野坂の意識を支配しているのは間違いなく彼女だった。野坂の視線を感じてか、先程から顔を上げようとしない彼女。
幼さが際立ち、一層子どもらしく見える。優美な姿から一転した、可憐で可愛らしい表情。野坂が少し顔を覗き込むと、大きな瞳がきょろっと野坂を捕らえた。
「担当の先生が、もう少し良くなったら外に出てみても良いんじゃないかって仰っててね」
病室に戻ると、彼女はいつも通り布団に半身を隠した。野坂は看護師の話に耳を傾けながら、以前部屋に置いて帰った雑誌を開く彼女の様子を観察していた。
「もし良ければ一緒に街を歩いてあげて。毎日病室に居てつまらないだろうから」
「分かりました。また考えておきます」
それから…、と途端に分かりやすく口元に手を当てた看護師を見て、野坂は一旦病室を出た。恐らく明るい話ではないのだろう。
「ごめんなさいね、実はAさんのお父様とやっと連絡が取れたの」
「それで、面談の承諾を頼まれたわ。…けれど、Aさんにとってストレスになるかもしれない」
心的ストレスに繋がれば、一種のトラウマが掘り返される危険がある。野坂は少し考えてから小さく頷いた。
「様子を見て、彼女に伝えておきます」
「私達から伝えるより、きっと良いと思う」
ラッキーカラー
あずきいろ
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
