おいで、恋愛しようか『LIP×LIP短編集』

甘えたがりサイレント『愛蔵』 ページ36

ﾋﾟﾋﾟｯという電子音が静寂に溶ける




体温計の画面を見た愛蔵は顔をしかめて溜め息をついた








「ったく......だからあれほど傘持ってけっつったろ？見ろよ案の定じゃねーか。
大体、降水確率100%で傘持ってかねー馬鹿がどこにいるんだ阿呆め」



「せめて馬鹿か阿呆かどっちかにしてくれると有難いかな」









現在午前11:30




病人に優しくない人間、愛蔵は更に深い溜め息をついた





私達は同居中で一応恋人、そして今日は土曜日




昨日の朝、天気予報を見たらしい愛蔵が口を酸っぱくして「午後から雨、降んぞ」と言ってくれたのに流石は私の頭。すっかり忘れていた




夕方に会社から出た私は正面玄関で矢のような雨を前に棒立ち状態。



仕方がないのでそのまま走って帰り、愛蔵が帰ってくる前にシャワーを浴びて証拠隠滅した



だが、遅れてやって来た高熱。どうやら傘を忘れてしまった私にツケが回ってきたようで.......






突然の頭痛に苦しんでいると愛蔵はベッドに頬杖をついた



「俺今日仕事なんですけど？」









勘弁してくれ、とでも言うような瞳にイラっとくる



じゃあほっとけばいいでしょ！









「......もう仕事行きなよ。別に私一人でも平気だから」







寝返りをうって愛蔵に背を向ける



ふんだ、そういう塩対応も今回は大概にしてほしいものだね


それに私は自分で分かってしまうほどな甘えたがり




それを知ってる筈の愛蔵は「あっそ」と言うと立ち上がった







え、え、ちょっと？




「今日、収録でさ？時間かかるけど夕方辺りには帰れそう」



「そうですか」








ぶっきらぼうに返すと愛蔵はｸｯと私を馬鹿にするように笑った









「因みに、今日夕方に雷鳴るらしいよ？」




「.........へえ、雷........！？」









.









雷。それは天空で起こる雨粒によって生じる静電気の大放電現象







放電はいいよ、勝手にお空でやってくれだよ



でもあんな大きい音出さなくてよくない？無駄に怖いの雷はよ！！









布団をめくり上げて嘆願の目で愛蔵を見つめるけど彼は背中を向けて此方を見ようとしない








「折角早く帰ってきてやろーと思ったのに
でもAが大丈夫なら心配ないな、今日は遅くなるー」



「そ....そんな....」









確信犯なんてずるいよ愛蔵........




目に涙が溜まる









結局愛蔵は一度も振り返らずに部屋を出ていってしまった

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