はじまり-5- ページ5
Side you
しかしいつまでもこうしている訳にもいかないので、一度気持ちを落ち着かせてから答えを言う。
「違いますよ。でもデザイナーは少し惜しいかもしれませんね。コーディネーターをしています。インテリアの。」
すると彼は「そうなの!?」と驚いたような反応をしたから、そんなに驚くことだろうか、と私の方が驚いてしまった。
「いや、ね。最近部屋の模様替えをしたんだけど、なかなかしっくりこなくて。部屋の写真でもあれば何かアドバイスがもらえたかもと思って。でも残念。写真を撮ってくるのを忘れていたみたい。」
そう肩を落とした彼に何かしてあげられることはないかと考えたが、写真がないなら仕方がない。この話はこれ以上続きそうにないので、今度は私の方から彼に質問してみることにした。
「斉と…壮馬さんはお仕事は何をされているんですか?撮影でパリにいらっしゃったのでしょう?それこそモデルの撮影とかでしょうか?」
私が彼の名前を言い直したことに彼は「好きなように呼んでくれていいよ。」と微笑みながら言ってくれた。
「僕もモデルじゃないよ。声優の仕事をしてるんだ。今回はその関係の撮影でね。」
へぇ。私はアニメが好きで日本に住んでいた頃はよく観ていたが、最近の声優さんはそういった仕事もされるのか。
その後もいろんな話をした。意外と好きなものが似ている私たちは初対面にも関わらず、すっかり打ち解けて話に花を咲かせていた。
斉藤さん改め壮馬さんとの話に夢中になっているといつの間にか日も落ち始めていた。そろそろお暇しようかと店を出て、別れようとしたその時、壮馬さんから「あの!」と少し大きな声で呼び止められた。
「今日すごく楽しかった。付き合ってくれてありがとう。それでね。僕、この後2週間ほどここに滞在する予定なんだ。よかったら暇な時間にまたこうやって会って話せないかな?また君と話がしたい。」
急にそんなこと言うものだからびっくりして少しの時間その場に固まってしまった。でも私も壮馬さんとの時間がすごく楽しかった。人と久しく話をしていなかったからかもしれないが、それでも彼と会話をすることが楽しいと思ったのは事実だ。だから私は笑顔でこう答えた。
「もちろんです。私もとても楽しい時間が過ごせました。こちらこそよろしくお願いします。」
こうして連絡先を交換してこの日は別れた。
はじまり了
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作者名:のあ | 作成日時:2020年8月14日 20時