東京合宿 ページ9
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飛雄を探して体育館の外に出てようとすると、翔陽くんと菅ちゃん、そして烏野のコーチが速攻について話し合うのが聞こえる。
立ち聞きは悪いと思い、違う扉から外に出ると、少し離れたところをスタスタ歩く飛雄を見つけた。
「よっ王様〜！」
「あ゛！？」
私が飛雄に向かってそう挨拶をすれば、飛雄は顔を歪ませて振り返る。
コート上の王様。
高校二年生の夏、初めて飛雄と知り会った後に、徹から聞いた飛雄の不名誉な通り名。
振り向いた飛雄は、まさか呼んだのが私だとは思っていなかったのかとても驚いた顔をして、…及川さんかと納得したように呟いた。
「飛雄さ、そんな調子でいいの？」
何となく烏野の状況を察してそう聞くと、俺はチームのために…と、先程翔陽くんにも言ったであろう説明を私にする。
自分は決して間違っていないと話す飛雄の言葉は、私に話すというより、自分に問いかけながら言っているように聞こえた。
「だから俺は、あの状態の日向にトスはあげません。」
最後、そう冷静に言い切った飛雄を私は何も言わず真顔で見つめる。
「ねぇ何にビビってんの？」
「っ別にビビってません」
現実的な話です。とすかさず否定してくる飛雄に、チームのために現状を守るって言ったけど、それで青城に負たんじゃないの？と私も冷静に本音をぶつける。
守りに入りたくなる姿勢はよく分かるし、もう春高まであまり時間もない。
そんな中でチームのバランスを崩すかもしれない。だから、他のところを磨いて、チームのレベルを上げたい。
でも、それじゃ勝てない。
実質の問題は見なかったことにすることと同じだ。
この言葉を飛雄がどう受けとるのか分からないが、私はただ、中三の頃の飛雄を見ているみたいで、なんとなく放っておけなかっただけ。
「Aさんにはわからないですよ」
そう言って私から目をそらす飛雄が黙ると、私たちの間には沈黙が流れる。
まぁそりゃそうだろうね。
他校の、しかも選手でもないやつに言われたら。
「…うん、そうだね」
別に怒った訳でもないし、突き放した訳でもないが、部外者の私が何を言っても無駄かと、余計な口出ししてごめんと謝って私は歩き出す。
体育館に戻る直前、チラッと飛雄を振り返ると、飛雄は手をぐっと握りしめて俯いていた。
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作者名：西川あや | 作成日時：2024年2月21日 11時
