埼玉合宿 最終日 ページ46
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「顔、ニヤけてる」
「マジ？」
やべ、と口元を覆う黒尾に少し笑うと、何笑ってんだよとバスの段差を登りながら車内を狭そうに屈んで歩く黒尾。
身長的に普通にしていても余裕な私が、前の席でいいやと適当に乗り込むと、他の席も空いているのにわざわざ隣に腰を下ろす。
今年も良い合宿になりましたねと感慨深く呟く黒尾に、なんでここに座った？と内心ツッコんでいると、自分の膝に肘をつきながら私に顔を向ける。
「狭いので他の席に座ってくださいよ」
「イヤです」
ウチのマネ、他校の連中に人気すぎて全然話せなかったんですもんとイジけた振りをする黒尾に、今はこういうテンションなのかと面白くなって笑いをこぼす。
「疲れちゃいましたか？」
「そりゃあもう。」
クタクタです…と黒尾が瞼を閉じると、監督と直井さんもバスに乗りこんできて、人数確認と忘れ物、その他の連絡事項を黒尾と私に確認する。
さっさと連絡を済ませてバスが出発すると、私たちは張り詰めていた気持ちを一気に緩めた。
「まーじで疲れた」
「それな」
はーっと息を吐きながらシートに沈み込むと、全く同じことを隣でしている黒尾が、大人しく寝るか？と私に意見を委ねてくる。
「寝たい。けど寝たくない」
「めっちゃわかる。」
体は寝たがってんだけど、頭がさ…と現状を力説し始める黒尾に、どっちが起きてられるか勝負しようぜと謎な勝負を持ちかけられる。
「負ける気がしない」
なぜこんなくだらない勝負を始めてしまったのか、私たちにも分からないが、気づくと20分も経たないうちに、周りは静寂に包まれた。
「みんな寝ちゃったね」
そう静かな車内で秘密話をするみたいに耳元で話しかけると、同じく私の耳元で話す黒尾は、1対1だなと楽しそうに笑う。
少しドキッとして視線を逸らし、暇だししりとりでもしようと誤魔化せば、これまたなぜか乗り気の黒尾と長期戦を繰り広げた。
「ポリ塩化ビニール」
「る攻めうっざ！」
◇
数時間後、音駒高校にバスが到着した際、繰り広げられた会話を私たちは知る由もない。
「Aさん、寝顔可愛い〜」
「っあ、おい！リエーフ触んな！」
「Aさんと黒尾さん、
お互いにもたれかかって寝てる！」
「黒尾さん、なんて羨ましい…！」
「ぐっすりですね、二人とも。
もう少し寝かせてあげましょうか」
◇◇
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作者名：西川あや | 作成日時：2024年2月21日 11時
