埼玉合宿 4日目 ページ33
◇
午前中の試合は一年生たちにマネージャー業を頼み、私は直井さんと病院に行く。
打撲と診断されて大量の湿布を貰った後、午後からは普通に試合に戻り、大袈裟に処置された手首を隠すためにジャージを着て暑い中走り回った。
「…どうやってペン握ろう」
そして、現在は空き教室。
自主練に付き合ってからご飯を食べ、お風呂に入った後、まだ腫れている手首は動かすだけで痛い。
凶器のような木兎のサーブに加え、よっぽど変なあたり方をしたのだなと、私は試行錯誤しながら痛くない角度を考える。
「…」
文字を書く音とページを捲る音だけが静かな教室に響く中、私はいつもより遅いペースで問題を解いて行く。
しばらく問題と向き合っていると分からない箇所がいくつか出てきて、解説を読むためにページを捲り、間違えた問題を違うノートにまとめる。
そして、文章を句読点で締めるのと同時に、ガラガラとドアが開く音がした。
「こんばんは〜」
月島にしては少し速いなと驚いて顔を上げると、そこにはいつも通りお風呂上がりで寝癖がとれた黒尾が立っている。
「なんだ黒尾か」
「なんだってなんだ」
いつもここで勉強してたんだなーと空き教室を見回す黒尾は、誘いなさいよと参考書と筆箱をチラつかせる。
私の前の席に腰を下ろしながら、邪魔か？と一応聞いてくる黒尾に、もう座ってるくせに何言ってんのと私は笑ってしまった。
「主将会議おつかれ！今年はどうだった？」
参考書を広げる黒尾に、毎年合宿の中日に行われる主将会議について聞くと、いつも通り木兎が騒いで同伴の赤葦に黙らせられてたと楽しそうに話す。
「あ、でも今年はサームラさんがいたから
比較的みんな静かだったな」
「さすがだね」
その後、一言二言交わした私達は、どちらともなく黙って過去問を解き始める。
時間はあっという間に流れていき、教室の時計が23時を指すのを見て、黒尾が休憩しようと言い出した。
さすがに疲れたし、同意して中途半端な問題を解き終えてからペンを置いた私は、そろそろ来るかなと期待して扉を見る。
「まーた誰かたらしこんでんのか」
「なにそれ？」
どういう意味かと私が聞くと、いーや？と意味深に言葉を止める黒尾。
そんな黒尾を不審に思いながら、昨日から月島が来ていることを説明しようとすれば、ちょうど扉の音に遮られた。
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作者名：西川あや | 作成日時：2024年2月21日 11時
