県立烏野高等学校、事務職員です。【２】

058　眼鏡 ページ8

「へー、月島くん明日もスタメンじゃん。すごいね」

　「いえ、別に」


　何だこいつ。興味ないことには一切感情を持たないのか。

　いや自分のことだろ興味示せよ。



　「ていうか、紙近すぎません？ 目、痛くなりませんかそれ」

　「いや、見えなくてさ」



　そう、私は極度の近眼だ。

　だから、メガネのない今、本当に目の前になきゃ文字など読めないのだ。

　ましてやA4に収められた文字など全然見えない。

　あ、そうだ。



　「月島くん、そのメガネ貸してよ」

　「は？ 嫌です」

　「ちょ、あまり大人に”は？”って言わないでよ。傷付くよ……」

　「ああ、すみません。嫌です」


　謝ってもはっきり断ってくるあたり、こいつは私のこと至極なめてるよな。

　こうなったらあとはもう互いの意地の張り合いだ。



　「ほら、貸せ」

　「あ、ちょっと！」


　残念、いくら背が高くても座っていちゃあ私の方が背高いんだよ。

　隙をついてメガネを取り上げ、自分にかける。



　「おお、月島くんも結構目悪いんだね」

　「そうですよ、何も見えないんで早く返してください」

　「似合う？」

　「見えないっつってんのに」



　だんだん私のペースに持ち込んで行く。

　はっ、青いなガキ。



　「おっけー、確認しました」



　じゃあ、紙とメガネ返すね、と言って渡そうとする。



　「あ、紙は持っててください。それ佐藤さん用なので」

　「了解、ありがとう。明日のために遅くまで起きてちゃダメよ」

　「……はーい」



　連絡事項を受け取り、自室に戻る。

　あれ、もともと紙を置いて行けばよかったのに、わざわざ待ってたくれたんだ。

　月島くんも可愛いところあるじゃん。

　明日は９時集合。私は遅くても６時には起きなきゃな。できれば５時半くらいに起きたい。

　今の時刻は20時50分、そろそろお風呂に入ろうかな。

　初日の風呂は散々な目に遭ったが、あれ以来"G"は出てこない。バルサンも焚いたしね。

　だから２日目からは安心して女風呂に入ってる。

　よし、パパっと入ろう。









　「あー疲れたー……」



　温かい湯を頭から浴び、一日を振り返る。

　明日で、合宿は終わりか。そろそろホームシックになってきたところだ。

　家帰って自分のベッドで寝たい。

　でもそれも、明日が最後。そう思うと少し寂しいな。

　なんて風呂に入ってると感傷的になる。

　早くあがろ。

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