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第十五波 ページ16

「首相…!」
息を切らして執務室に飛び込んで来た大石に浅野は顔を上げた。いつも涼しい顔――何も考えていないように見えて心底を覗くことのできない顔をしている大石の慌てぶりにただ事ではないとすぐ感じとる。彼の隣にいた大 野が、彼の姿を見た途端にあからさまに嫌そうな顔をした。
「大石…?どうした」
尋ねた浅野に大石は呼吸を整えつつ口を開いた。
「ドイツ軍、スロバキア軍がポーランドに侵攻しました。最早、戦いの火種を抑えることは…」
思わず浅野は立ち上がる。
「世界を巻き込む大戦が、再び起こるというのか」
語尾が震えた。もう対立がどうしようもないところまで来ていることくらい分かっていた。それでも、25年前のあの大戦で世界は総力戦に懲りたのではないかと、そんな僅かな期待を持っていた。それが、いとも簡単に崩されてしまった。
「日本はドイツと防共協定を結んでいる。しかしドイツが戦争を始めた時我が国も宣戦布告をしなければいけない義務は協定の中にない…」
僅かな希望にすがるように浅野が言った。しかし、先程まで黙っていた大 野が口を開く。
「首相。もう中国との戦争を始めた時点で連合国側との和平は不可能です。そして、今すぐではなくてもいつか日本は中立を保てなくなるでしょう」
浅野は唇を噛み締めた。1分ほどだろうか、誰もなにも言わない沈黙の時間が続いた。
「…大石」
唐突に浅野が顔を上げて言った。
「衆議院を解散する」
「なっ…」
大石と大 野が同時に目を見開いた。
「首相。この時期に唐突に解散とは…正気ですか」
そう早口で言った大 野を、大石がなだめる。
「今だからこそ、だろう。今後さらに情勢が緊迫すれば選挙どころではなくなる。今のうちに…というお考えではないのか」
自分の言いたいことを代弁してくれた大石に、浅野が満足そうに頷いた。
「国難突破解散、とでも大言壮語してみるか」
大石が小さく頷いた。大 野は渋々といった雰囲気を隠しもせず頭を下げた。



「…本日をもって、衆議院を解散致します」
浅野の凛とした声が本会議場に響いた。
万歳の叫びが一気に沸き起こった。これからどうなることかと大石は密かに溜息をついた。

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嵩画鯉城@トラ!トラ!トラ!(プロフ) - 月読命さん» ありがとうございます(o^^o) そうなんですね〜、死後百年ですか…この小説の舞台は若干微妙な年代なので、その辺り気を付けて書いていこうと思います。 (2017年10月6日 18時) (レス) id: 3ce9c05f06 (このIDを非表示/違反報告)
月読命 - 更新がんばってください!ちなみに歴史上の人物の場合、死後およそ100年で名前をかってに使われない権利みたいなのが消えるみたいです。 (2017年10月2日 20時) (レス) id: 3990fcd378 (このIDを非表示/違反報告)
蘭秀@ニイタカヤマノボレ(プロフ) - あんこ(ろ)餅さん» コメントありがとうございます。歴史上の人物を使用する場合はオリフラを外す必要はない、と聞いたのですが…。ちなみにww2の内容については実在する団体は一切使用しておりません。 (2017年6月19日 7時) (レス) id: c435ca72cc (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(ろ)餅 - これはオリジナルですか?実在する団体などを使用してる場合はオリジナルフラグを外してくださいね (2017年6月19日 7時) (レス) id: db0d61df1d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蘭秀、鯉城 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年6月11日 19時

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