愛し愛され。振り振られ。【短編集】

場地圭介 ページ24

冴えない人。

だから、周りはみんな近づかない。
仕事での必要最低限の話だけ。

七三ペッタリ眼鏡。




「場地さん」
「はい」
「資料ここ置いておきますね」
「ありがとう」




資料に貼られた不釣り合いなピンクの付箋を見て、彼が眼鏡をクイッと上げた。


“ランチ一緒に行こ！”


紛れもなく私が書いた文字。
彼は一瞬口角を上げ、隣に小さくOKと書いた。



私は最初から彼に偏見などなかった。


真面目で仕事もできる。


身なりばかり気にして
対して仕事もしない、チャラついた男共よりよっぽどいい。




「場地」
「おう」




会社から少し離れた公園。
この季節は桜が綺麗で、先に着いていた場地は、腕を枕代わりに、芝生に横になってそれを眺めていた。




「またペヤング？」
「うめぇじゃん」




眼鏡を外した顔は、社内で私しか知らない。
ニカッて笑った時に見える八重歯は、あどけなさが残る。




「お前だって、そればっか」
「サンドウィッチは公園のお供でしょうよ」




この砕けた話し方も、私だけが知ってる場地。


たわいもない話をして
くだらない事で笑って
このランチの時間があって、仕事が頑張れる。




「来週のスポーツ大会出るの？」
「勝手に出席になってた」
「あらま！かわいそうに！」
「思ってねぇだろ！」




私のおでこを指でこついて笑ってる。

この笑顔を独り占めしたくなったのはいつから？
この人に、恋焦がれるようになったのは……、いつからだろう。



私が場地の本当の姿を知ったのは、会社の飲み会の日だった。


幹事を押し付けられて、会計をしている内に皆は二次会へと勝手に移動。
どこに行ったのかもわからず、半べそでお店を出ると、壁に寄りかかる七三眼鏡。




「場地さん…？」
「大丈夫？」
「は、い……みんなは…？」
「次行った」




もしかして、待っててくれた…？




「幹事ありがとな」
「いえ…」
「駅前のカラオケにいるみてぇだから、じゃ」




え…、何その話し方…。
お酒が入ると、そんな話し方なの？


軽く手を上げ、去ろうとする彼の袖を、無意識に引いていた。




「わわわ！ごめんなさい…！」
「……どうした？酔ってんのか？」




場地さんの声をちゃんと聞いたの初めてだ…。
落ち着いていて、低い男らしい声。




「えっと…」




不思議そうに首を傾げて、私の言葉を待ってる。




「ふ、ふた、二人で二次会行きませんか！？」




何言ってんだ私。

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