愛し愛され。振り振られ。【灰谷竜胆】

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視線の先には、砂浜と竜胆の足元。


どうして、こんな所に？
竜胆みたいな、キラキラした人が来る所じゃないよ。




「まーたお顔見せてくんねぇの？」
「……なんでいるの」




いつかの日のように、
綺麗な指が、私の喉をゴロゴロしてる。




「飼い猫が脱走したから、迎えきた」
「……」
「足丸出しで、凍えてたらあっためてやんねぇと」
「必要ないって、言われるかもよ」




今その温もりに捕まったら、
二度と離れられなくなる。

凍える足は、自分で温めるよ。




「可愛い猫ちゃん、傷つけちゃったんだよ俺」
「……そうなの？」
「あぁ、俺のせいで」




竜胆は喉元から手を離して、
「寒ィだろ」って、私を抱きしめた。


また、捕まった。
相変わらず優しいんだね、竜胆は。




「大柄の男に襲われちゃってさ、」
「……っ！」
「傷ついてるとこに、また俺が言葉で傷つけた」




あの日の事…？
杉山本人に聞いたの？知られたくなかった。

絶望で、体が固まった。




「ごめん…、ほんとに…」
「竜胆…」




私を抱く腕に力を込めた。

それが、許しを乞おう子供に見えて、
愛しさに、竜胆を抱きしめ返す。




「竜胆のせいじゃないよ」
「俺のせい」
「ちがうのに…」
「お前は優しいね」




頭に添えられた手が私の髪をナデナデ。
それが気持ちくて、目を閉じた。


このまま、時間が止まればいいのに。




「……帰ろう？一緒に」
「……帰らない…」
「どうして？」
「家もないし、仕事もやめたし…」




もう東京に私の居場所はない。
名残惜しいけど、竜胆から離れた。


竜胆は、えって顔で私を見てる。


もうおしまいにしよう。




「竜胆が気に病む事じゃないから」




優しい竜胆を、
これ以上私の事で、縛り付けたくない。




「杉山の事も、竜胆のせいじゃない」
「A」
「気にさせて、ごめんね？」
「A、聞け、」
「竜胆が怒るのも当たり前だよ」
「俺の話を聞、」
「美愛ちゃんにあんな態度」
「聞けって、」
「だからもう、私の事は忘れて、」
「忘れられっかよ！！」




珍しく大声を出す竜胆に、
思わず黙り込んでしまう。


私の頬にピタッとくっついた手が、優しく涙を拭ってる。


え……、私泣いてる…？




「忘れられんなら、こんなとこまで追っかけて来ねぇ」




いつもキリリとしてる眉毛が、
今は心なしか垂れ下がってる。




「なんで泣く？」




竜胆は困ったように、
私の涙を拭い続ける。

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