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声にならない痛みに耐えながら、ロベルティーネは長椅子の前で転がる青年をもう一度確認する。間違いない。不恰好な姿、濡羽色の髪、異常なまでに白い肌。あの時、彼女の看板に亀裂を入れた張本人だ。赤くなった額をさすりながら、未だに加えていたパンを持っていたハンカチで包んで長椅子の上に置くと、懐からナイフを取り出して、それを転がる青年の眼前へと向けた。流石の青年も「ヒェッ」と短い悲鳴を漏らす。
「此処に来るなんて、良い度胸だな。もう一度殺されに来たのか」
「ノックせずに入ったのは悪かったよ。だって、教会の人だとは思わなかったし」
扉をノックをすればOKと言う話ではない。一度殺されるかけた相手に、再び会いに行く被害者なんて聞いた事が無い。と言うよりも、実際には一度殺されているので、本来この世に居る筈のない被害者の訳だが、こうも無神経で能天気な人間(?)は彼女にとって初めてのタイプ──こんなタイプ彼が最初で最後だろうが──とも言えた。だからと言って、再びロベルティーネの元に現れたのは非常に愚かな事である。褒められた物ではない、命知らずな行動と言わざるを得なかった。しかし、報復をしに来た可能性も捨て切れない。彼女の握るナイフに思わず力が入る。
だが、青年はナイフを向けられているにも関わらずニッコリと笑うと、ズボンのポケットから一本のナイフを取り出す。美しく光を反射するそれはあの時、投擲したまま置いていったナイフである。向けられた刃物と手に持ってるナイフを見比べて、青年は安堵した様に息を吐いた。ナイフの切っ先を向けられているのにも関わらずだ。
「やっぱり、あの時の女の子だ。探してたんだよ。昨日の夕方頃、君に似た人を見掛けたから、此処ら辺の人かなって思ってさ」
昨日の夕方。ロベルティーネは黙考する。昨日は寝ていた記憶しかない。外に出た記憶は──否、あった。寝惚けた頭を無理矢理起こして、外に出掛けている筈だ。そう、夜明けと勘違いし、やってる訳がない朝市に買い物に出掛けてしまったあの失態を見られていたとは。同じ相手に一度ならず、二度までも。恥ずかしくて、穴があったら入りたい気分だ。
一方のそんな事情があったとはつい知らず、青年はナイフの刃の部分を持ってロベルティーネに差し出した。刃物を渡す際の、正しい渡し方である。
「忘れ物。君のでしょう?」
故意に忘れていった物だ。しかし、この能天気男には通じなかった上に、懇切丁寧に返しに来たらしい。
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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月18日 21時