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彼女は元来、自分の性別にコンプレックスを抱いていたが、己の才能によってその性別でさえもねじ伏せてきた──ねじ伏せなければならなかった。裏の世界はいつだって男尊女卑。男は金と権力に塗れ、女は艶やかに男の駒となる。これがこの世界の常識でもあった。
彼女がかつて居た、今はもう無い犯罪組織──「無音の死神」として名を挙げる要因にもなった、小さくて名もない組織だ。ドイツの何処かにあって、今は跡形もなく消え去ってしまった──も例外ではなかった。初めこそは女として、その特性を活かしながら殺してきたが、年齢を重ねるについて、性別によるコンプレックスは徐々に膨らんでいき、それに疲れてしまった彼女は小賢しくも男らしく、その組織を消す形で、彼女は性別を凌駕していった。それでも依頼人からは「女の癖に」だとか、「どうせ色仕掛けなんだろう」と言われるが、彼女はその度に性別をねじ伏せ、ねじ伏せ、悉くねじ伏せて、力を示してきたのだ。今更、女扱いをされても嬉しくも何ともなく、返って不愉快だった。綺麗な名前も服も容姿も要らない。誰かも知らない男からの特別で甘やかな感情も要らない。欲しいのは只一つ──
「……彼奴は私の親友、絵本作家なんだよ。昨日ジャルドーレ付近にやってきて、寝床がないから泊めてくれって言われて、仕方なく」
「お前に!? 親友!? 有り得ないんだけど!」
失礼過ぎる反応を示すシャルロだが、この話がロベルティーネ相手なら別である。
あの意地でも人を寄せ付けない超現実主義で仕事熱心な、極めて真面目な彼女──これは強ち間違いではない。別に忠実に守る必要もない「無音の死神」の通り名でさえも有言実行してしまうのだから、寧ろ健気過ぎるぐらいだ──に、いつの間に親友が出来たと言うのか。人と分かり合えそうにないこの女が、まさか親友、しかも男の親友である。彼女を知る人物なら、誰だって大袈裟なリアクションを取るだろう。
勿論、ロベルティーネもそう言いたかった訳では無い。理由は、メルヴィンの素性を言った所で誰も信じないし、変に追求されるのを拒んだからに他ならない。その為、物事を有耶無耶にしようと考えた策が、昨日ダンテと話した際にメルヴィンが言い放った親友発言を、そのまま流用させてもらったのだ。残念ながら、皆が期待する程の関係性ではない。
だが、泊まらせたのは本当で、あの日の夜、しつこく追いかけ回すメルヴィンに、うんざりした彼女は少しだけ怒鳴り散らしたのだ。
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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月18日 21時